Columnコラム

2025.06.02

発達の心配がある子どもの入園にどう対応すべきか? 保育士の「加配」の壁と情報共有の重要性

ーーーー本コラムでは、株式会社くうねあの大園長・堀江宗巨が、保育にまつわる様々な課題や最近のニュースを取り上げていきます。

今回は「お子さんの発達」に関連した課題についてお話します。

保育園では通常の人員基準に対して、特別なサポートを必要とするお子さんには1名の保育士を追加配置し、その費用を自治体が負担する「加配」という制度があります。

この制度を利用できるかどうかの基準が極めて曖昧で、時に保育園を運営する私たちも、翻弄されています。実際に私たちの園でも発達に心配のあるお子さんが入園を希望されていた際に「加配」を申請したり、さまざまな理由で申請さえもできなかったりといった経験があり、「加配」について頭を悩ませることもあります。

また2022年広島市のとある園では、保育士の配置不足により配慮が必要なお子さんから目を離してしまった結果、園児が死亡するという取り返しのつかない事故が起きてしまいました。

本コラムでは、以前のような悲惨な事件を二度と起こさないためにも、保育における「加配」制度の課題や難しさ、そして私たちが考える具体的な解決策について共有できればと考えています。

加配を受けるためのプロセスと審査基準

まずは「加配」を受けるためのプロセスについて簡単に説明します。

  1. お子さんの発達や行動などに不安がある保護者の方が、保育園に相談
  2. それを受けた保育園側が子どもの状況を把握するために、面談等を実施
  3. 保育園側で「加配が必要」と判断した場合、保育園が自治体に対して加配加算を申請
  4. 自治体が提出された情報をもとに審査を行い、加配の可否と内容(支援時間・人員など)を決定する

④における自治体の「加配」の審査基準についてですが、入園予定のお子さんが療育手帳(知的障害のある方へ交付される障害者手帳)を持っていれば認められます。

また私たちの経験上では、お子さんの療育手帳が発行されるまでの間や、療育手帳は出ていないものの現場で保育士を1人つける必要があると判断された場合なども「加配」の対象となることがあります。

「加配」によって起こる弊害とくうねあでの対応策

しかし実際にはお子さんの発達にはグラデーションがあるため、お子さんが「療育手帳」を持っていなかったり、自治体の「加配」の基準に合わなかったりしたとしても、追加の保育士さんが必要なケースは少なくありません。

実際、くうねあでも、療育センターに通っているお子さんがくうねあへの入園を希望されていた時に「加配の壁」に直面したことがありました。そのお子さんは療育手帳は持っていないものの、園の見学にいらした際のお子さんの行動を見ていると、現在のスタッフだけでは対応が難しいと感じました。

そこで広島市の「加配」に関する審議会へ申請を行いましたが、このケースについては「加配」は認められませんでした。

広島市では2022年の保育士の配置の課題により起きてしまった園児の死亡事故により加配に関する基準は以前より緩和されているものの、審議会を通じて加配を得るには、まだまだ壁が厚いという印象を受けます。

私たちの園では、そもそも国で決められた配置基準より多くのスタッフを配置するようにしています。また「加配」の有無にかかわらず、必要だと判断すれば様々な工夫でプラスアルファの人員を配置するように努めています。

これらが可能なのは、私たちが意図として広島市内の近い場所に保育園を5施設運営しているからというのが背景にあります。この戦略は、くうねあを設立する際セブンイレブンのドミナント戦略(*1)を参考にしました。近隣にくうねあの園があることで、必要な時に柔軟に職員を配置できる体制になっています。

(*1)特定の地域にチェーン店の店舗を集中して出店することで、その地域におけるシェアを独占する経営戦略のこと。

「切れ目のない支援」を本当の意味で実現するために

先ほどはくうねあの取り組みを共有させていただきましたが、「加配」の問題を社会全体として乗り越えていくには、私自身は「専門機関同士で子どもの情報を共有化する仕組み」が必要だと考えています。

現在は個人情報保護法等により、療育や発達に関する情報が施設間で十分に共有できない状況があります。このため、子ども一人ひとりの成長発達に関する正確な状況把握やそれに応じた適切な対応を考えることが困難になっています。厚生労働省が掲げている「切れ目のない支援」という理念と、子どもの情報が分断されている実態とは大きくかけ離れていると言わざるを得ません。

このような状況から、目の前に実際に追加の保育士が必要なお子さんがいても、「加配」の基準に合わないという理由で適切な人員配置ができない園が存在し、今後も以前の広島で起きた事故が起こる可能性も否定できません。

通常、発育に心配のあるお子さんは、公的な資金で運営されているため「人員配置」に制約の少ない公立の保育園にてマンツーマンでの対応を受けるケースが多くあります。しかし、私たちのような民間事業者の場合は公立園のような潤沢な人件費はありませんので受け入れが難しいこともあります。しかし、お子さんや親御さんの子育てに関する願いが「加配基準」「公立や私立」などの違いのために叶わないという状況は本来あってはならないのではないでしょうか。

また、前出の情報共有においては、発達支援の為に様々な施設サービスをご利用されている方も多く存在します。しかし、それらの情報がスムースに共有される環境ではありません。

子どものパーソナルな情報は、誰のためのものか。
「切れ目のない支援」を本当の意味で実現するためにも、こうした根本的な議論を社会全体でより深めていく必要があると考えています。

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