Initiativesくうねあの取り組み
「くうねあで唯一の男性保育士 - かずさんのお話」

- 保護者ライター執筆
- この記事は、くうねあの園児・卒園生の保護者の方に取材・執筆を行なっていただきました。

今回は、くうねあで唯一の男性保育士・かずさんにお話を伺いました。短大卒業後、保育士として11年間勤務後、一度は民間企業の営業職へ転身。しかし「やっぱり保育の現場に戻りたい」と再び保育士の道を選んだユニークなキャリアの持ち主です。さまざまな園での経験、そして保育への思いについて語っていただきました。
保育士を目指したきっかけは “姉の存在” と “幼少期の記憶”
かずさん
「保育士を目指したきっかけは、2つあります。1つは、姉が保育士を目指していて、同じ学校に進んだこと。もう1つは、幼少期のホームビデオを家族でよく見ていたことで、自分の幼稚園時代の姿が印象に残っていたことです。当時、僕はよく動き回っていたらしいんですが、担任の先生が根気よく関わってくださったと親から聞いて、『先生ってすごいな』と思ったんです。」
県外の短大で幼児教育を学び、実習を通じて子どもたちと関わる楽しさを実感したかずさん。卒業後は地元・広島に戻り、男性保育士として働ける園を探し始めましたが、思うようには見つからなかったといいます。
かずさん
「当時は“男性可”と明記されている求人がほとんどなくて。保育は女性中心の職場なんだなと感じました。そんな中、紹介していただいた園で『やる気があるならおいで』と言ってもらえて、初めての職場が決まりました。」
ーそこから11年間もお勤めされたのですね。
かずさん
「いろいろな求人を探してきた中で、初めて採用してもらえた場所だったので、『ようやく受け入れてもらえた』という気持ちが強かったです。」
最初の保育園で11年、そして一度現場を離れて気づいたこと
初めての職場では、11年間勤務。主に3〜5歳児の担任を経験し、3年目には年長クラスの主担任を任されました。副担任には後輩がつき、少しずつ後輩を育てる立場にもなっていったといいます。
かずさん
「年長クラスはやることも多く、正直プレッシャーもありましたが、なんとかやり切った一年でした。その後、男性保育士ということもあり、当時の園長先生には『幼児担当のプロフェッショナルになってほしい』と声をかけてもらい、主に幼児クラスを担当することが多くなりました。」
ー11年間を通して、ほとんど幼児さん(3〜5歳児)を担当されていたのですね?
かずさん
「実は最後の1年間だけ、1歳児さんの担当だったんです。当時の園では、いろんな年齢のクラスを経験しようという方針があって。幼児クラスを多く担当していた自分が、初めて乳児クラスに配属されたときは新鮮でした。幼児クラスは運動会や発表会などの行事が多くて、毎日準備に追われる感じだったのですが、乳児は座って子どもたちと向き合う時間が多くて。最初は『こんなに座っていていいのかな』とソワソワしてしまうこともありました(笑)特に僕は男性で背も高いので、できるだけ威圧的に見えないように、意識して目線を低く合わせるように心がけました。幼児クラスとはまた違った大変さもありましたが、成長が目に見えやすい乳児クラスで過ごした1年間は、貴重な経験になりました。」
保育士としてのキャリアを順調に積み重ね、子どもたちと遊び、成長を見守る日々にやりがいを感じていたかずさん。けれど、30代に差しかかる頃、「このままでいいのかな」という思いが芽生え、保育の現場を離れる決意をしました。
かずさん
「ちょっと一度、別の世界を見てみたいと思ったんです。それで、保育以外の仕事にも挑戦してみようと、まずはドラッグストアで働きながら登録販売者(※1)の資格取得にチャレンジしました。でも、漢方の勉強が思った以上に難しくて、挫折してしまって(笑)その後は営業職に転職して、もともと車が好きだったこともあって、車を使っていろんな取引先を回る仕事に就きました。ただ、一年離れてみて改めて感じたのは、保育の知識や11年かけて培った経験は、自分の中にちゃんと根づいているということでした。やはりもう一度、保育というフィールドで、自分の力を発揮できる場所で働きたいと思ったんです。」
(※1:一般用医薬品(市販薬)のうち、第二類・第三類医薬品を販売できる専門資格)
再び保育の現場へ、くうねあとの出会い
営業職を経て、再び保育士に戻ったかずさん。県庁の保育士バンクを通じて紹介されたのが、くうねあです。大園長先生との出会いも大きな転機となりました。
かずさん
「県庁の保育士バンクの方に『大園長(おおえんちょう)という面白い方がいるよ』と紹介されたのが、くうねあとの出会いでした。そのとき『大園長は、園長先生の中で一番上という意味と、もう1つ、“みんなを応援する人” という意味があるんだよ』と教えていただいて、それがすごく印象的で。僕自身、それまで大規模保育園しか経験がなかったので、“小規模保育園” という環境にも興味を惹かれました。そして、面接のときに『スーツで来ないでください』って言われて(笑)そんなこと初めてだったので驚きましたけど、実際に面接に行ってみたら、大園長先生が園のことを本当に気さくに、いろいろと話してくださって。そのお人柄や園の雰囲気に触れて、ますますここで働いてみたいという気持ちが強くなりました。」
ーくうねあに就職されたのは、もう何年前になりますか?
かずさん
「今が8年目なので、8年前になりますね。不思議なことに、11年間勤めた前の園よりも『え、もう8年も経ったの?』という感覚です。」
くうねあで体験した、子どもの主体性を尊重する保育
くうねあで働く中で、かずさんが何度も話題に挙げたのは「子どもの主体性を尊重する」という保育の在り方でした。子どもたちが自分たちで行事を作り上げたり、異年齢保育の中で年上の子が年下の子を助けたり。子ども同士が自然に関わり合い、支え合う光景は、かずさんにとって心に残る場面の連続だったといいます。
「子どもたちの力って本当にすごい」──かずさんは何度もそう繰り返していました。
かずさん
「『遊びながら学ぶってこういうことなんだ』と、くうねあで改めて気づかされました。昔勤めていた園は学年ごとにカリキュラムが組まれていて、発達段階に合わせて『ここまでできるようにしよう』という感じで進んでいましたが、くうねあは全然違って。行事というものがまず明確に決まっていなくて、子どもたちの “やりたい” から行事が生まれていくんです。」
異年齢保育(3~5歳)も、かずさんにとっては初めての経験だったといいます。
かずさん
「最初は、『年長と年少が一緒に同じことができるの?』と戸惑いもありました。でも一緒に過ごしていく中で、年長さんが年下の子を見てくれたり、僕たち保育士が難しいと感じるようなことも子どもたち同士で助け合って解決している姿を見て、子どもたちの本当のすごさを感じました。『子ども同士で育ちあう』ということを、こんなに体現している保育園は他にないんじゃないかなと思います。」
大人としての関わり方についても、くうねあでの学びがあったというかずさん。
かずさん
「もちろん大人が必要な場面もありますが、まずは子どもたちがどんな方向に進んでいくのかを見守る。そして、いざ助けが必要なときに、『こんな選択肢もあるんだよ』とそっと手を差し伸べる。大人が準備して、子どもが選び取る。子どもが決める。それがくうねあで学ばせてもらった保育の姿勢です。」
一方で、保護者からの声に触れる機会もあります。
かずさん
「保護者の方からは、『運動会はないのですか?』といったお声をいただくこともあります。確かに、いわゆる “園の行事” がないと感じられるかもしれません。でも、枠にとらわれずに子どもたちが自由に世界を広げていく、その世界観は本当に大切にしてあげたいと思っています。だからこそ、お家の人たちにもぜひ、その子どもたちの世界観に入り込んで、一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。ただ、やっぱり『我が子の成長をしっかり感じたい』と思う保護者の方もいらっしゃるので、そういうお気持ちも理解した上で、僕たち保育士側も、園での子どもたちの姿をしっかり発信していけたらと思っています。」
園全体で子どもたちを見守る “チーム保育” という考え方
これまでいろんな先生方のインタビューをしてきましたが、かずさんもやはり、園が一つになって保育に携わることの大切さを語ってくださいました。
かずさん
「この園では『自分のクラスの子どもだけを見ればいい』というスタンスではなく、園全体で子どもたちを見守る意識があります。『チーム保育』という言葉を僕が初めて知ったのも、くうねあでした。『困ったことがあったら助けに行く』『誰かが休んだら自分が代わりに入る』─そういう関係性が自然とできているんです。例えば祇園園舎には幼児クラスが3クラスあるんですが、それぞれの担当が自分のクラスのことだけを見るのではなく、他のクラスの子どもたちも気にかけて、必要があれば意見を出し合ったりしています。」
-お熱などでお迎えに行ったときも感じていましたが、先生同士の伝達の速さや、皆さんの情報共有の徹底ぶりも本当にすごいなと感じていました。別のクラスの先生と廊下で会ったときでも、『お熱大丈夫ですか?』と声をかけてもらえたり。
かずさん
「大園長先生がよく『5つの園で1つの園(※2)』ということを伝えてくださるので、それがスタッフみんなの意識の中にも根づいているんだと思います。もちろん、先生一人ひとりに仕事の負担はありますが、それをお互いにカバーし合えるのは、普段からこうした関係づくりができているからこそ。やっぱり、スタッフ同士の仲の良さや、助け合える雰囲気は、この園の大きな強みですね。また、園長や主任といった立場の人たちがサポートしてくれているおかげで、『働きやすい』『居心地がいい』と感じられますし、だからこそ今、長く働き続けられているんだと思います。」
(※2:インタビュー当時、西原、東原、戸坂、祇園、お山の5つ園舎で構成されています)
これから保育士を目指す方へのメッセージ
ーこれから保育士を目指す方へメッセージをお願いします。
かずさん
「きっかけは何でもいいと思うんです。『子どもと遊んでみたい』『自分が遊ぶのが好き』─僕はどちらもそう感じていたので、この道を選びました。もちろん、保育の仕事は遊ぶだけじゃないこともたくさんあります。保育以外の見えない部分での仕事も多いです。でも、子どもたちと過ごす時間の中で、必ず “やりがい” は見つけられるんです。子どもの成長に関わっていると感じられたとき—例えば、卒園のときに保護者の方から『先生に見ていただいて本当に良かったです』と声をかけていただけたときは、『ああ、自分はちゃんと人の役に立てているんだな』って、心から感じられました。だから、これから保育士を目指す方も、すでに現場で働いている方も、ぜひ自信を持ってこの仕事を楽しんでほしいと思います。大変なこともたくさんありますが、それ以上にやりがいがあって、きっと自分の人生を豊かにしてくれる仕事だと思っています。」
今回のインタビューを通して印象的だったのは、かずさんの子どもたちの力を信じるまなざしと、保育の仕事に対する深い誇りでした。『ぜひ子どもたちの世界に入り込んで、一緒に楽しんでほしい』という保護者の方への温かいメッセージからも、くうねあらしい保育観が伝わってきます。このインタビューが、保育士を目指す方にとってはキャリアの参考に、保護者の方にとっては保育園への理解を深めるきっかけになれば幸いです。
かずさん、本当にありがとうございました。
ライタープロフィール
- 石井さん[PTA 会員No.002]※
- 2010年・2015・2017年生まれの三人の息子の母です。2013年に長男がくすの木保育園に入園したことをきっかけに、次男三男の卒園まで計11年間、我が子がくすの木保育園で過ごしました。卒園後も古民家で引き続き保育園時代のご家族と交流させてもらっています。今後はくうねあWebマガジンの執筆を通して、長年子どもたちがお世話になったことへのご恩返しができればと思っています。
趣味はお片付け。毎日三人の息子たちと戦いながらおうちを片づけています。
※PTAとはParents Team Authors(執筆・保護者チーム)の略で、執筆を引き受けてくれた保護者の方たちのチーム名です。