Columnコラム

2024.07.08

くうねあが保育外サービスで収入を増やすワケ、令和の子育て社会を支える保育園へ

保育事業にとどまらず、グッズ販売や家事代行サービスなど、幅広い取り組みを展開するくうねあ。それらの事業を牽引する堀江宗巨大園長(おおえんちょう)は、保育事業を核に置きつつも、今後は「保育外収入」の割合をこれまで以上に高めていきたいと話します。今回のインタビューではその真意に迫るとともに、くうねあが目指す「子育てしやすい社会」の実現に向けた展望について伺いました。

ーくうねあがビジョンに掲げる「子育てしやすい社会」とは、どんな社会なのでしょうか?

私たちが目指すのは、社会全体で子育てを支え、誰もが安心して子どもを育てられるような社会です。そのために、保育を軸にした社会インフラの実現を目指しています。

元来、子どもを育てるということは、地域や親戚など、様々な人が協力して行ってきたこと。 時代や地域によって差はあれど、少なくとも現代のように、生みの親だけで子育てをしてきた歴史はありません。くうねあでは「みんなで子どもを育てる」という、本来社会が持ちえた機能を、無理のない仕組みとして現代に再現することを目指しています。

そのなかで、保育園は重要な役割を果たす施設の一つです。 しかし、現時点における保育園の機能は、担える役割が限定的だと思うんです。

例えば、給食室。 現在は保育に関わる食事とおやつの提供にとどまっていますが、晩ごはんのおかずやお弁当の一品を作って提供したり、子どもが安心して食べられる夕食を提供する食堂として運営したりすることで、働く保護者の方をさらにサポートすることができる可能性があります。給食づくりのノウハウを生かして、子どもにも安心な食堂として営業することもできるかもしれません。

しかし現在の仕組みでは、それを実現するのは難しいんです。

ーそれはなぜでしょうか?

背景には、保育園の収益構造が大きく関係しています。保育園は、国や自治体からの補助金で運営される補助金事業です。利益を追求する一般的な企業とは異なり、園児数に応じて必要な経費が給付される仕組みのため、補助金が投入されている園の施設を、保育事業から逸脱した目的で使用することはできません。

しかし、保育園は子育てに関わる様々な役割を担っており、その機能を自由度高く展開できれば、理想とする「子育てしやすい社会」の実現に大きく貢献できると確信しています。

補助金事業という枠組みを超え、保育園の機能を社会の役に立てていくためには、用途を縛られない「自由に使える資金」が必要だと考えました。

創業当初から「株式会社」という形態を選択したのは、こうした構想に基づいてのこと。売り上げを上げ、利益を社会に還元できる自由度の高いビジネスモデルを実現するためには、株式会社こそが最適だと判断したからです。

ー「自由に使える資金」があれば、どんなことができるんでしょうか。

先ほどの給食室の例で言えば、給食室を販売向けのおかず作りに使用することは難しくても、資金があればキッチンを新設したり、キッチンカーを購入したりすることで、実現に向けて選択肢が広がります。

また、資金力があれば、決して収益性の高くない社会貢献的な事業にも積極的に取り組むことができると考えています。その一つとして構想しているのが、病児保育です。

子どもはすぐに風邪を引いたり、体調を崩してしまうもの。時には鼻水や咳が明らかに出てる状況でも、熱がないからといって連れてこられる方も少なくありません。もちろん、親御さんの事情も分かりますが、やっぱり子どもはいつもと違って辛そうだったり、周囲への感染リスクも気になります…。
本来、子供が体調不良のときには気軽に休める社会というのが理想ですが、なかなか一足飛びには難しい。その間を繋ぐシステムとして、病児保育が必要だと考えています。

小児科に併設している病児保育室もありますが、できれば日常的に通っている保育園の環境のなかで受け入れられると、お子さんにとっても保護者の方にとっても安心かなと思うんです。

ー共働き世帯が多い、現代ならではの子育ての課題ですね。

病児保育は需要の変動が大きく、安定した売上を確保することが難しいという課題があります。多くの病児保育室が赤字経営を余儀なくされているのが現状です。

しかし、くうねあにはベビーシッター事業部があり、病児保育の経験豊富なスタッフが在籍しています。常駐スタッフではなく、必要に応じて病児保育の専門知識を持つスタッフを派遣することで、運営の柔軟性を高めることができるのではないかと考えています。

それでもおそらく、病児保育事業単体で黒字化を実現することは難しいでしょう。現段階では社会貢献の一環として、資金力を得て実現したいと考えていることの一つです。

ーそうした資金はどうやって集めるのでしょうか?

保育事業を営むための収入は基本的に補助金のため、儲けることは実質不可能ですし、先ほどもお伝えしたように、補助金を目的外で使用することはできません。

そこでくうねあでは「保育外収入」に注目し、さまざまな事業に積極的に取り組んでいます。保育外収入とは、保育事業以外で発生する収入のことで、くうねあでは家事代行サービスやベビーシッター事業、オリジナルグッズの制作・販売などによる収入がこれに該当します。

現在のくうねあにおける保育外収入の割合は、まだ1割未満。ですが今後は保育収入を維持しつつも、保育外収入の割合の方が大きい状態を目指したいと考えています。

ーどういう方法でそれほどまでに増やすのでしょうか?

保育のプロとして培ってきた経験やノウハウには高い価値があり、収入源につながる余地があります。例えば、保育園では毎日、それも何年間も離乳食を作っています。そこには、知識とノウハウが詰まっているわけです。

一方で、家庭での離乳食作りは、多くの家庭にとって悩みの種。「どうしようかな」と迷っているうちに、子どもが大きくなってしまい、次の子どもが生まれた頃には離乳食の作り方を忘れてしまっている、なんてことも多いでしょう。

保育園では、調理師も0歳児の保育士も、毎日毎日その子の成長を見ながら、「もう少し硬めにした方が良いかな」「柔らかくした方が良いかな」「そろそろこれが食べられるかな」など、個々に合った離乳食について相談しながら進めています。その子にあった離乳食のアドバイスや離乳食作りの講座なども、保育園ならではの新しい事業の一つになりうると考えています。

ー現場で子どもに関わってきたプロからの知見の共有やアドバイスは、保護者にとって何より心強いですし、価値がありますね。

情報だけなら本やネットに溢れていますが、それらの情報がわが子に本当に合うのかどうかは判断が難しい。そこは実際に子どもと接してきた経験こそが物を言うと思うんです。長年の経験を持つベテラン保育士の「この道50年」の重みを持った、心のこもったアドバイスは、大きな価値を持っていると感じますね。

ー保育外収入が増えることは、保育の現場にとってどんな影響があるんでしょうか?

保育園をベースに様々な事業を展開できるようになると、保育士の活躍の場を増やすことにも繋がります。

保育士の仕事は子供から目を離すことができない緊張感の高い仕事であり、体力のいる仕事でもあります。心身ともに負担が大きく、「体がもたない」「子どもを見ていて事故でも起こしたら大変だから」といった理由で、定年まで待たずにリタイアされていく保育士も少なくありません。

しかし、現代は人生100年時代。ベテラン保育士の豊富な経験と知識を活かせる場を用意できればという思いを、長年抱いてきました。

今後、例えば保育園に食堂やおもちゃ屋さんが併設できれば、体力仕事ではない場面でベテラン保育士に活躍してもらうことができます。保護者の方がおもちゃを買うついでに子育ての相談したりもできますし、保育士にとっては自分の知見を余すことなく発揮できる場にもなると考えています。

保育外収入は、単なる収益源としての役割にとどまらず、保育園の新たな可能性を拓く鍵となることがわかりました。単に子供を預かる場から、子供たちの成長を支え、地域社会の基盤を担う保育園へ。くうねあの進化はこれからも続いていきます。

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