Initiativesくうねあの取り組み
くうねあ×無印良品 地域とつながる「出張ひろば」運営のねらいとは?
くうねあが運営する子育てオープンスペース「くすの木」は、子育て中の親子が気軽に集える居場所として、地域に根ざした活動を続けています。2022年9月からは、「出張ひろば」もスタート。現在は、ショッピングセンター「ゆめテラス祇園」内の無印良品で、毎週1回、ひろばを開催しています。今回の記事では、「くすの木」の施設長を務める保育士の後口さん、そして立ち上げ当初から運営に携わる堀江大園長に、そのねらいを聞きました。
ーそもそも「子育てオープンスペース」とはどういう場所でしょうか。
後口さん
「子育てオープンスペース」は、乳幼児とその保護者が気軽に集まって遊んだり、情報交換したりできる場所のことです。おもちゃで遊んだり、絵本を読んだり、他の親子と交流したりと、さまざまな過ごし方ができます。
大園長
くうねあの「子育てオープンスペース くすの木」は、2020年9月1日にスタートしました。広島市では、このようなスペースを各区に開設する取り組みを進めており、私たちもその一環として運営しています。
2020年当時、くうねあが運営していたこども園・保育園は4カ所。でも、4カ所合わせても受け入れられる子どもの数は190名程度と限りがあります。一方で子育てオープンスペースなら定員がなく、もっとたくさんの親子との自由な出会いが楽しめるんじゃないか。そんな思いが、子育てオープンスペースをはじめるきっかけになりました。
ー「子育てオープンスペースくすの木」では、利用者さんはどのように過ごしているのでしょうか?
後口さん
利用対象は、就学前の乳幼児とその保護者、そして妊婦さんです。なかでも産後の育休中の方が多いのですが、小さなお子さんを育てていると、「気が付くと丸一日、大人と話していなかった」という方も少なくありません。
そのため、私たちはお子さんとも遊びますが、主に保護者の方々とお話をさせていただいています。子育ての悩みや喜びを共有したり、不安な気持ちを打ち明けたりといった、心の支えとなるような場を目指しています。
保護者の方同士がつながってほしいという思いから、年齢が近いお子さんを持つ方同士を繋いだり、同じ出身地の方同士を紹介したりすることもあります。
「友達を作りたいけど、なかなか自分からは声をかけにくい」という方には、私たちスタッフがきっかけを作り、自然と輪が広がっていくような雰囲気づくりを、「ただ、単に遊びたい」という方には適度な距離で接するなど、その方の希望に合わせて声かけをしています。
また、育児相談に来る方も多くいらっしゃいます。インターネットの情報があふれている中で、何が正しいのか迷ってしまう方も多いようです。私たちは、様々な育児方法があることを伝えつつ、「お母さんが良いと思えば、それで良い」という考えのもと、寄り添ってアドバイスをすることもあります。
保育園のように、子どもの生活の全てを知っているわけではありませんが、これまでの経験を踏まえて、保護者の方々が自信を持って子育てできるようにと、サポートしています。
ー常設の「子育てオープンスペース」に加えて、「出張ひろば」を始めたのはどういった思いからだったのでしょうか?
後口さん
「くすの木」に気軽に来られない方、例えば自宅から遠いという方もいらっしゃいます。そんな方々に、私たちが直接会いに行こうと考えたことが「出張ひろば」を始めたきっかけです。
理想をいえば、常設のオープンスペースを増やすことができれば良いのですが、スタッフの配置など、さまざまな課題があります。週1回という形であれば、地域に直接出向き、子育て中のお母さんたちに遊び場を提供できると考えたんです。
2022年9月、まだコロナ禍が続いていた中、くうねあが借りている古民家(現在は「つむぎつむぐオープンスペース西原古民家」として開放)を拠点に、週に1回のペースで「出張ひろば」を始めました。コロナ禍で外出が制限され、子育て中の多くのお母さんたちがストレスや孤独感を抱えていたと思います。「くすの木」とは少し離れた場所にある古民家で「出張ひろば」を開催することで、新たな親子との出会いが生まれるのではないかと期待しました。
「古民家」で「出張ひろば」を始めて1年半、多くの親子連れの方に来ていただきました。そんな頃、近隣のショッピングモール内にある無印良品さんから、地域の子育て世帯に喜んでいただけることをしたいとお話しいただいたんです。
ー無印良品さんからの相談は、どのようなものだったのでしょうか?
後口さん
私たちの「出張ひろば」の取り組みを知った無印良品さんから、店舗内の一角で同様のスペースを設けられないかというご相談を受けました。
地域密着型の店舗運営を目指している無印良品さん。地域に根ざした活動を検討される中で、私たちの活動を知っていただいたようです。
ここ安佐南区は子育て世帯が多く、特に0歳~2歳の子どもが安心して遊べる屋内のスペースが少ないという声も聞こえてきます。このような地域のニーズに応えたいという思いが一致し、無印良品さんとの連携が実現しました。
これまでの出張ひろばを開いていた古民家と、無印良品さんとの距離は車で5分弱。歩いても15分程度です。これまでの利用者さんも来られる距離だということもあって、出張ひろばの開催場所を移し、2023年12月より運営を始めました。
ー新しく開いた出張ひろばは、どのような場所なのでしょうか?
後口さん
無印良品さんの店舗内の一角を、毎週水曜日に子育てひろばとして利用しています。このスペースは、私たちが子育てひろばを開催していない日には、ヨガ教室や歯磨き指導など、さまざまなイベントが行われる多目的スペースとなっています。
大園長
子育てひろばというと、箱のような空間があれば運営できると多くの人が考えるかもしれませんが、実は設計が非常に大切です。
先ほど後口さんが言っていたように、ひろばには親子でくつろぐだけではなく、相談したい方も訪れます。しかし、「相談に来ている」ということを周囲に知られたくない方もいますし、深刻な悩みであれば、賑やかな空間では話しづらいでしょう。となると、相談用のスペースや動線が必要になってきます。
無印良品さんとのひろば立ち上げにあたっては、設計段階から関わらせていただきました。ひろばは週1日のため、空間全てがひろば仕様というわけではありませんが、それでもかなり機能的な空間を実現することができました。
ー利用者の数は増えたのでしょうか?
後口さん
はい、増えましたね。平均して、1日に10~12組ほどの親子が訪れてくれていますが、この地域は転勤族が多く、特に年度の変わり目は初めて参加される親子が順番待ちをしているようなこともありました。
無印良品という多くの人が訪れる場所に「ひろば」があるため、「こんなところがあるんだ」と、たまたま通りかかって立ち寄る方も多いです。通路からひろばの様子が見えるので、どんな人がいるのかが一目で分かり、入りやすいという点が大きいですね。
以前の古民家では、玄関をノックして入らなければならず、少しハードルが高かったかもしれません。その点、今の場所は気軽に立ち寄れるので、より多くの方に利用していただけていると思います。
ーショッピングモールだからこその利点があるんですね。今後はどういった展開を見据えているのでしょうか?
後口さん
利用者さんからは「毎週1回ではなく、毎日やってほしい」という声もいただいています。「出張ひろば」はあくまでも支援の一部です。できれば常設のオープンスペースとして運営でき、出張ひろばが不要になることが理想かなと思いますね。
大園長
今回の無印良品さんのように、ショッピングセンターなど人が多く行き来する場所にひろばがあると、利用する方にとっても便利ですし、私たちとしても支援の手を伸ばしやすい。そういった意味では今後もさまざまなパートナーと連携し、まちや暮らしの中で、親子の居場所づくりを拡大していきたいですね。
その際にはぜひ設計段階から関わることで、より良いオープンスペースやひろばを実現したいです。利用者さんにとって使い勝手や居心地がよい空間づくりには、ソフト面が充実するだけでは不十分。ハード面とのバランスが、やっぱり大切ですから。