Initiativesくうねあの取り組み
海外ボランティアと保育園の12年 言語習得よりも僕たちが大切にしたいこと
くうねあは、国際ボランティア団体ICYEジャパンと連携し、多様な国からこれまでに40名を超える保育スタッフを迎え入れてきました。彼らはくうねあの保育園で半年間活動し、子どもたちやスタッフと交流を深めています。
本記事では、この取り組みのねらいについて、ICYEジャパンの黒瀬聖子理事長と、くうねあ代表の堀江大園長にお話を聞きました。
―くうねあで海外ボランティアを受け入れるようになったきっかけを教えてください。
堀江
かれこれ12年前になりますが、黒瀬さんからのご相談が、この取り組みを始めるきっかけになりました。「海外ボランティアを受け入れてほしい」という内容に、「おもしろそう」と感じ、単純な興味から受け入れることを決めたんです。
最初のボランティアは、アイスランドから来た21歳の青年で、1ヶ月間、くうねあが運営するくすの木保育園に滞在しました。この経験を機に、海外からのボランティアを定期的に受け入れるようになり、これまで40人以上の方々に来ていただきました。
―ICYEではなぜくうねあを選ばれたのですか?
黒瀬さん
私たちICYEは、世界各国に支部を持つ国際ボランティア団体で、主に20代から30代の若者を対象に、海外でのボランティア活動を通じて異文化理解を深める機会を提供しています。年間10人程のボランティア生を海外から受け入れ、国内の活動先に派遣しているのですが、その活動先を探していた際に、堀江さんと出会いました。
そもそも、平和の象徴である広島は、国際ボランティアを受け入れる上で欠かせないと考え、それまでも長年、広島を中心に活動先を選定してきました。東京や大阪のような都市部よりも、日本の原風景が残る地方の方が、ボランティアたちが故郷のように感じ、また戻ってきたいと思える場所になるだろうという期待もありました。
また、言語の壁が比較的低い保育園や学校などの教育現場は、ボランティアの活動場所としてとても相性が良いのです。常に新しいことに挑戦していて、何事にも前向きな姿勢で取り組まれている堀江さん、そしてくうねあは、まさに私たちにとって理想的でした。外国人を受け入れるということは、国際的な感覚が不可欠ですからね。
ー堀江大園長はどうして受け入れをすんなり決めたのでしょうか?
堀江
実はうちの園では、以前から積極的に職員の海外研修を行ってきました。海外での様々な刺激が、保育士としての専門性を高める良い機会になるだろうと思ってのことです。いつも同じ場所にいるだけでは得られない、「違う価値観」「違う方法」に触れることは、大きな刺激になりますから。外国人のボランティア生を受け入れるのも、同じような考えからでした。
そもそも、子どもたちに「いろんな人と仲良くしなさい」と言っても、言葉だけではなかなか伝わらないものです。だったら、実際に「いろんな人」と触れ合う機会を設けて、「どこの国の人だって、そんなに変わらない」ということを、大人も子どもも肌で感じてほしいと思ったんです。
ー保育園とボランティア生、双方にとってこれまでどんな気づきや成長が生まれてきたのでしょうか?
堀江
私たちは海外ボランティアを受け入れてはいますが、英語を教えてもらったり、国際社会でリーダーになるためといった特別な目的は設定していません。言葉はコミュニケーションの手段の一つに過ぎません。大切なのは、相手が誰でも、自分の意見を率直に伝え、相手の話をしっかりと聞くことができる、そんなコミュニケーション能力を育むことです。
何年もボランティアを受け入れてきた中で、子どもたちや若いスタッフたちも、そういった感覚を掴んできていると感じていますね。
黒瀬さん
ボランティア生も、いろいろな気づきや学びを得ているようです。
なかには幼児教育に強い関心があったわけではないというボランティア生もいますが、異文化に触れる中で、相手を理解し、尊重する大切さを学ぶ良い機会になっていると思います。
例えば、デンマークから来た子は、日本の子どもたちの規律性に驚いたと言っていました。育つ環境や背景が理解できると、文化の違う相手への理解も深まりますよね。
堀江
私たちの園では英語教育を行ってはいませんが、ボランティアの方々の言語力には、いつも驚かされます。プロフィールには「日本語が苦手です」と書いてあったとしても、実際に会ってみると流暢な日本語を話す人が多いんです。しかも、複数の言語を操る人も珍しくありません。
まだ日本語も上達途中の園児にとって英語教育は早いと思っていますが、将来的に語学力が必要かどうかって言われると、そこは必要なんじゃないかなと思っています。ボランティアの方々との交流を通して、子どもたちは自然と英語に触れる機会を得ていますし、彼らの行動力やコミュニケーション能力がポジティブな影響を及ぼしているなと感じますね。
ーこれまでのボランティア生の受け入れで、記憶に残っているエピソードはありますか?
黒瀬さん
20代後半のデンマーク人青年が、ホームシックになってしまったことがありました。堀江さんが滞在先にマンションの一室を用意してくださり、安心して彼を送り出したのですが、予想に反してとても寂しがり屋だったようなんです。
園に行ってもあまり積極的に会話をせず、外にもあまり出られない。最初は全くその原因に気がつかず、心配していました。
堀江
どうやら彼は、滞在といえばホームステイのイメージがあったようなんですね。しかし、突然一人暮らしが始まってしまい、少しふさぎ込んでしまったようです。
そのことに気づいてからは、週に1回、わが家に呼んで、妻に料理を作ってもらい、子供たちとアニメを見ながら一緒に食事をとるようにしました。外食に連れて行ったりもしましたね。そのうちに元気を取り戻して、無事に滞在期間を終えて帰国していきました。
元々、若くて海外に飛び込むというぐらいですから、アグレッシブな方が多いのかなと思っていましたが、どんな国の人にもナイーブな人もいるし、人間って根本は同じだよなと改めて気づかされましたね。いろんな人と関わる中で、私たちも学ばせてもらっています。
ーたくさんの海外ボランティア生といい関係を作られてきたことがよくわかりました。
堀江
帰国後も来日した時には遊びに来てくれたりする子もいますよ。そういう場所になれているのは、やっぱり嬉しいですね。
黒瀬さん
ボランティアの活動先は、基本的には事務局で決めるのですが、来日前に希望を聞くと、驚くことに、「くうねあに行きたい」と希望する人がたくさんいるんですよ。先輩ボランティアから話を聞いて、くうねあに興味を持ったという声もよく聞きます。
くうねあの運営する保育園は、単なる活動場所を超えて、ボランティアたちにとって特別な魅力を持つ場所になっていることがよくわかります。彼らが得た経験は、きっと将来の彼らの人生にも大きな影響を与えていると思いますね。
取材協力:ICYEジャパン理事長 黒瀬聖子氏 ・ICYEジャパン事務局 及川彩希子氏