Columnコラム

2024.02.02

社会の追い風に立ちはだかる「2つの障壁」。託児、ベビーシッター業界の展望を考える

くうねあの創業時から保育園事業とともに重要視し、運営を続けてきたベビーシッター事業。創業から約10年が経った現在、ベビーシッターや託児を巡る情勢も大きく変化しているのを感じます。

1番大きな変化は、様々なイベントや場所で託児所が開かれるようになったこと。学会や議会の傍聴、2023年は女子プロゴルフの一部会場で託児所が開かれるようになるなど、さまざまな領域で働くお母さんを後押しする施策が目立つようになりました。

では、ベビーシッターや託児の需要は増えているのか。そんな問いかけに「業界に追い風は吹いていない」と語るのは、ベビーシッター事業「アンファンス」の責任者を務める篠田朱見(しのだ・あけみ)。同社のベビーシッター事業を取り仕切る立場から見えた、業界の現状や課題に迫ります。(聞き手:丸山彬)

型にとらわれない「イベント保育」が増えている

「くうねあ」では広島市全域やその周辺で個人のベビーシッターの依頼を受けていることはもちろん、全国各地でのイベント託児も受け付けています。近年、学会や議会傍聴などでも話題となるイベント託児ですが、同社にも依頼が寄せられることが増えました。

直近で好評を博したのは、一般社団法人が主催し、約3000人が参加した学会でのイベント託児でした。多くの親御さんが来場し、託児の対象となる0歳から未就学児も100人という大規模のイベント。どうすれば退屈しない時間を過ごせるか―。社員で話し合いを行い、実際に行ったのは「お祭り保育」でした。

はっぴや紅白幕の他、廃材を用いた魚釣りのおもちゃも手作り。スタッフと子どもが一緒になって盛り上がり、結果、お子さんと親御さん共に大好評を博しました。

この他、ベビーシッターを担当しているご家庭からリクエストを受けてクリスマスパーティを一緒に考えることも。託児所というと、単に子どもを預けて保育する―というイメージを持っている人も多いかもしれませんが、くうねあでは従来のベビーシッターにとらわれない活動にも積極的です。

こうした「イベント保育」を行う事例も、浸透していけば業界がおもしろくなるだろうな、と思っています。

ベビーシッターが浸透しない2つの障壁

さて、こうした学会や変わった場所での「ベビーシッター」や「託児」をニュースで見る日も多くなってきた昨今。業界には追い風が吹いているのでは?という声も目立ちます。しかし、あくまで広島市に限った話をすると、あまり現状は変わっていないと言わざるを得ません。これについては、主に2つの障壁があると感じています。

1つはニュースなどでもたびたび報道されている、シッターによるわいせつ事件。特に相談を受ける親御さんからは「男性のシッターはいないか」と確認されることも多いです。これについては、抵抗感を示す親御さんがいるのも無理はないと感じています。

もう1つは「ベビーシッターはお金持ちが依頼するもの」という固定観念。大都市圏はともかく、広島市などの地方都市ではこうした考えは根強い傾向にあると実感しています。子ども家庭庁は、厚生年金が適用されている事業所が申請できるベビーシッターの割引券を発行していますが、浸透している肌感覚はありません。

共働きの家庭が増える中で、ベビーシッターの利用をしやすくするにはどうすればいいのか。試行錯誤の毎日ですが、1番は信頼関係の醸成に尽きると考えています。

弊社では、入会を考えているご家庭は必ず面談。それでも不安がある家庭には、シッターの顔写真付きの経歴書を確認するフローを挟みます。利用初期は経験豊富なシッターを派遣し、少しずつ信頼関係ができたところで、若いシッターを派遣するようなプログラムにすることが多いです。

また、シッターのストレスや不安要素を解消するために、3ヶ月に1度の頻度で「全体会議」を開くことも心がけています。全体会議では、仕事をする上での認識のすりあわせやざっくばらんな雑談が中心。シッターの不安を和らげ、仕事にやりがいを持ってもらうことが目的です。

利用者はもちろんですが、働くシッターのケアをすることも、信頼されるサービスを構築する上で必要不可欠だと感じています。

より「人」を見る業界になってほしい

障壁があると言いつつも、女性の社会進出が進む昨今の社会において、ベビーシッターや託児所が必要とされる場面は今後も増えていくでしょう。そんな状況下で、働きたいと思える人が増えるような、より開かれた業界にならなければなりません。

ベビーシッターそのものに資格はありませんが、現在の規制では、個人の家庭に派遣するには看護師、保育士、子育て支援員のいずれかの資格が必要と定められています。しかし、基準を満たした保育者が少なく、資格のない人が働きたいと思っても、規制に阻まれてしまう現状があります。

先述したように、ベビーシッターや託児の仕事は、資格よりも人間関係や信頼関係の構築が肝要。資格はあくまでも品質を担保する目安の1つに過ぎないと感じています。子ども家庭庁や自治体には、やりがいや思いを持った人々が働きやすいと思えるような業界作りの手助けをしてほしいと願っています。

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