Columnコラム
職員の横領、一族ぐるみの不正経理…。不祥事相次ぐ保育業界の問題の根幹にあるものとは
老人ホームや保育所など、地域社会の福祉事業を担うことを目的に設立されている、社会福祉法人。昨今、そんな同法人での横領事件や不正経理の発覚が相次いでいます。ひとたび検索すると、同種の不祥事や理事長の逮捕といったニュースが山のように出てくることでしょう。
ではなぜ、このような不祥事が発生し、明るみになりやすいのか。株式会社くうねあの大園長・堀江宗巨は問題の根幹に、社会福祉法人に対する行政の「性善説」があると指摘。相次ぐ不祥事から、体質の改善が求められる社会福祉法人のあり方を考えます。
レクサスや高級ブランド服、アダルトDVDを経費で…。社会福祉法人で起きた衝撃の不祥事
広島市内で保育園やベビーシッター事業を展開する「くうねあ」は、同業種としては珍しい株式会社として運営しています。一方、世間に存在する保育園は「社会福祉法人」によって営まれていることがほとんどです。
社会福祉法人は読んで字のごとく、保育、介護などの社会福祉事業を担うための法人で、自治体が所轄。株式会社と違い、営利をあげることを目指さなくてもいい特性を持っています。行政が担いきれない社会福祉事業を担う代わりに、法人税や都道府県民税が原則的に非課税となる他、利用できる補助金も数多くあることも特徴です。
地域社会にとって、福祉を担う代わりに様々な特権的な優遇が与えられている社会福祉法人。そんな法人でのガバナンスや会計処理の問題について焦点が当たるきっかけになった事案が、2017年に起こりました。兵庫県や東京都など、7都道府県で保育園を運営する社福で発覚した不正流用問題です。
この法人では、「福祉車両」の名目で理事長の長女が利用する約700万円の高級車「レクサス」を購入。「ハロウィンの衣装」と称し、理事長の妻が高級ブランドの服100万円超を購入したほか、当の理事長に至っては「社会福祉の専門書」としてアダルトDVDを購入していたことまで明らかになりました。
さらに、勤務していない親族の「架空勤務」による給与支払いも発覚。営利を求めず、地域の社会福祉事業を担うはずの法人で発覚した一連の不祥事は、関係者だけでなく、多くの国民にとって衝撃を持って受け止められました。
この他にも、「社会福祉法人 不祥事」と検索するだけで、同様の事案について、枚挙にいとまがないことが一目でわかります。ではなぜ、このような不祥事が発生するようになってしまったのか。保育園を運営する立場から見えた問題点を考えていきます。
志あるはずの法人がなぜ「カネ」にまみれてしまうのか
社会福祉法人の不祥事として最も多く認知されているのが、先述したような横領や不正経理に代表される「カネ」にまつわる問題です。こうした不正な金銭の動きは、所轄する自治体による監査で防げるのではーーと考える人もいるかもしれません。しかし、この監査が甘いことが、問題を野放しにしている根幹なのではないかと考えています。
基本的に、社会福祉法人への監査は補助金が法人の運営に使用されているかをチェックするのみで、細かい物品と領収書を付き合わせることはしません。行政が社会福祉事業を委託しているという建前があるからか、収入と支出に整合性があれば監査を通過できる、いわゆる「性善説」によって成り立っています。そもそも、細かい領収書までチェックすることができない人的リソースの限界も、こうした状況の背景にあるかもしれません。
社会福祉法人は利益を求められない業態でもあり、創業者の地域に貢献したいーーという崇高な意志によって設立され、行政に認められることで存在することができます。法人設立の背景にある、そうした「想い」を否定する気はありません。一方、一族経営が多い社会福祉法人では、経営権が二代目、三代目と継承されていくなかで、「甘い蜜を吸う」体質のみが引き継がれているケースが増えているのではないかー。会社設立から10年余がたち、様々な法人を見る中で、そんな考えを持つようになりました。
もちろん、政府もこの状況を傍観しているわけではありません。法人をめぐる種々の不祥事を受け、政府は社会福祉法を改正。適正な運営を担保するため、法人運営の基本ルールや理事の選任を決議する「評議員会」の設置を義務付けました。しかし、いまだに抜け道は多く、いま発覚している種々の不祥事も、氷山の一角と呼べるでしょう。
海外では、ランダムで全国各地にある法人の財務諸表を細かくチェックする「専門部隊」を構築しているところもあると聞きます。社会福祉法人の多くは、創業者の崇高な理念を引き継ぎ、真面目に福祉事業と向き合っているところがほとんど。行政によるチェック機能強化を通じ、横領や不正経理といった、業界の信用を貶める事案が少しでも少なくなることを願っています。