Initiativesくうねあの取り組み

2023.11.27

子どもの風邪予防。
看護師とふりかえる日々のキホン

保育園に子どもを預けて驚くのが、風邪をひく頻度!特に免疫力の低い小さい子どもは頻繁に風邪をもらっては園をお休みします。「先週も熱を出したばかりなのに……!」と悲鳴を上げる親御さんも多いのではないでしょうか。

今回は「病気の予防」をテーマに、認定保育園くすの木祇園で0歳児の保育を担当しながら、園全体の医療関係の相談も受けている富田久美子さんと、大園長の堀江宗巨さんにお話を伺いました。

くうねあの保育園では風邪が蔓延することがあまりなく、感染症なども一度にワッと広がることが少ないそう。どんなことを意識して、子どもたちの健康管理や環境づくりをおこなっているのでしょうか。

発見と治療の第一歩は、子どもへの寄り添い

まず最初に、看護師として小児科やクリニックなどで長年働いてきた富田さんに、子どもの病気発見のコツを伺います。大人たちが、どのように「この子、具合が悪いのかも?」と察知してあげられるのかを聞くと、富田さんは「子どもたちの“いつもと違う”を見つけてあげること」だと言います。

富田さん

「私自身や保育士たちが子どもと触れ合ったときに『なんだかちょっと熱いかな』と、発熱に気づくことが多いですね。その他にも、いつもより食欲がなかったり、いつもより機嫌が悪かったり。普段と違う場合、なにかしらのサインが出ている可能性があると思います」

体調不良の予兆がわかれば、保護者もそれだけ早く対応や調整がしやすくなります。富田さんは、保育園に通う子どもたちの保護者から「受診のタイミング」を相談されることもあるそうです。

富田さん

「病院に連れていったほうがいいのかな、という判断は難しいですよね、子どもの様子をよく観察して、苦しそうな場合は受診を勧めています。特に咳は、子どもにとってはすごくエネルギーを消耗するのでしんどいはず。また、小さい子どもは、鼻水から中耳炎になったり、咳から肺炎になったり、悪化することも多いんです。心配であれば、しっかりと病院で診てもらうことをおすすめしています」

また治療や手洗いなどに関しても、子どもは嫌がったりして大変です。親としては無理矢理だったり騙し騙しだったりでどうにか進めたくなりますが、ここでも富田さんは「寄り添い」をキーワードにします。

富田さん

「くうねあでは、普段から子どもとの対話を大切にすることを掲げており、医療的な側面でもそれは同じです。 無理矢理なことはせず、ちゃんとお話しする。そうすると、意外と0歳児でもわかってくれるんです。例えば、すいばり(木のトゲ)が刺さってしまったときは、子どもに『取るからね』ってちゃんと話をすると、すごくがんばってくれます。痛いはずなのに必死に耐えてがんばる姿を見て、私もまた感動して『すごいね、強いね』って声をかけて。話をしっかりして、 がんばったらしっかり褒めて、というのは心がけようといつも思っています」

病気の予防は、日々の暮らしの中から

富田さんが勤務するくすの木保育園では風邪や病気が蔓延しにくいと聞き、その秘密を探ろうと質問していくと、「基本的なことが、実は一番大事」だということがわかってきます。

まず、子どもが過ごす環境は、清潔に。普段の掃除や換気をしっかりとすることに加えて、口に物を入れがちな0歳児クラスでは、アルコール消毒を心がけているそうです。保育園はたくさんの子どもたちが一緒に過ごす場所のために徹底しているので、おうちではそこまで神経質にならなくてもいいと富田さんは言います。

富田さん

「消毒に一生懸命になって、保護者の方が疲れてしまっては大変ですからね。部屋を清潔にしておくのと、少し大きくなったら手洗い・うがいをしっかりすることで十分予防になります」

そして、季節や気温にあった衣服を選ぶことも、体調を整えておくためには重要。特に子どもは体温が高めで体温調節が苦手なため、厚着のしすぎには注意してほしいそうです。

富田さん

「暑いなかで厚着をして汗をかいてしまうと、逆に体調を崩すことにもつながります。体温と気温に合わせて洋服を選べるといいですね。園では、半袖と長袖を両方準備しておいてもらうよう保護者のみなさんにご協力いただいています」

大園長の堀江さんも、「感染症が流行っている時期でも特殊なことは特にやっていない」と話し、やはり日々の基本的なところが大事だと語りました。その上で、堀江さんも富田さんも強調した“一番の予防”。それは、子どもたち自身の免疫力をあげることです。

「食う・寝る・遊ぶ」の基本が免疫力を上げる

子どもたちの免疫力を上げるために、なにか特別なことをしているのかと言えば、そういうわけでもないと話す2人。風邪をひかない、もしくは悪化させないために何ができるのかを聞いてみます。

富田さん

「私はそういうとき、『しっかり食べて、しっかり寝て、しっかり遊ぶ』とお話しさせてもらっています」

株式会社くうねあの社名の由来でもある「食う・寝る・遊ぶ」は、やはり子どもたちにとって大切なこと。学びや情緒の成長だけでなく、病気予防や体づくりの面においても、とても重要なことです。堀江さんは、なかでも特に「睡眠」がとても重要だと続けます。

堀江さん

「寝不足になると、疲れが取れずにうまく遊べないですし、感情のコントロールも徐々に利きにくくなってきます。 一般的に、乳幼児であれば10時間くらいは睡眠時間を取っているといいとされているので、できることなら夜の9時くらいには寝かせられるのが理想的ではあります」

とはいうものの、親の仕事や生活リズムによってはなかなか難しい場合も。子どもによってはなかなか寝付けない子どももいます。そういうときに、取り入れられる工夫として堀江さんは「明かり」を挙げました。

堀江さん

「寝る時間が迫ってきたら、徐々に部屋の明かりを暗くしていくことをおすすめしています。昼間と同じように蛍光灯の明かりを煌々とつけているのは、大人にとっても子どもにとっても休まりません。電球を変えてみたり、意識的に電気を消してみたり、できることから取り入れてみるといいのかなと思います」

普段からの睡眠にも気を使いつつ、子どもの体調が悪そうだと感じるときには意識的に早く寝かせることも回復への近道なのかもしれません。

子どもは風邪を引いて強くなる、それを受容できる社会へ

免疫力をあげたり、しっかりと予防することが大切な一方で、「風邪をひいたら大変だ」「病気にならないようにしなければ」と予防ばかりが必要になってしまうことに、堀江さんと富田さんは疑問を投げかけます。

堀江さん

「病気をして丈夫になっていくのが人間の成長なので、病気をしないのも実は問題なんですよね。私たちは『適度な病気は大歓迎』というか、必要なことだと思っています。ただ、それを社会が受け入れられていないことを、日々感じることが多いのが現状です」

子どもが発熱したという連絡をもらって「うわ、仕事どうしよう」「今日は予定があったのに」と思ったことがある人がほとんどではないでしょうか。堀江さんと富田さんも「一番つらいのは、社会のルールと子どもの病気の間に立たされる保護者」だとした上で、社会全体の「子どもの病気」に対する認識を変えていく必要性を訴えます。

堀江さん

「“子どもが風邪をひくのはしょうがないことだ”と、誰もが頭ではわかっています。けれど、『今日は運転手の子どもが病気なので電車を1本止めます、バスを1本なくします』というリアルな話になると不満が出てきてしまう。子どもが病気になったら、世の中がある程度はストップしても構わないという認識が、社会のなかに浸透していくことが理想だなと思います」

「食う・寝る・遊ぶ」をしっかりとこなす生活は、子どもが子どもらしく暮らせるということ。その上で、子どもも大人も、無理なく病気と付き合っていけることが理想です。免疫力と清潔な環境と、子どもも大人もちゃんと休める社会。子どもの風邪を「大歓迎」と当たり前のように受け入れ、みんなでケアできる社会こそ、未来に向けた子育てにおいて必要な物なのかもしれません。

記事一覧へ