Initiativesくうねあの取り組み
赤ちゃんとの出会いから始まった人生の転機 ― 対話を重ねて歩む、みずきさんのお話

- 保護者ライター執筆
- この記事は、くうねあの園児・卒園生の保護者の方に取材・執筆を行なっていただきました。

「なんだこのかわいい生き物は!」
高校2年生のみずきさんが近所で出会った赤ちゃんを見た時の率直な感想です。それまでは理系へ進学、管理栄養士を目指していた彼女の人生が、この瞬間から大きく変わりました。
有場 瑞希(ありば みずき)さんは現在、くうねあで1歳児クラスの主担任を務める6年目の保育士。新卒からくうねあで着実にキャリアを積み重ね、子どもたちの成長を見守り続けています。記録と分析も大切にする理系的なアプローチと、子どもたちとの予測不可能な日々。一見相反するように見える二つの要素が、瑞希さんの保育にどのような化学反応を生み出しているのでしょうか―。
運命の赤ちゃんとの出会い ~ 理系から保育士への大きな進路変更
みずきさん
「元々は理系に進んで、食べることが好きだったので管理栄養士になるんだって思って生きていました。」
みずきさんの将来の設計図は、保育とは遠い場所にありました。理系の勉強に励み、将来の職業も明確に決めていた高校生活。しかし、運命の転機は思わぬところから訪れます。
みずきさん
「高校2年生の時に、近所に小さい子が生まれたんです。家族以外で、弟もいるんですけど、それとは違うかわいさで。高校生の私と0歳の赤ちゃんって、すごく年齢が離れていて、『なんだこのかわいい生き物は!』みたいなところから始まって。」
その時の衝撃を、みずきさんは今でも鮮明に覚えています。数学は好きでも理科は得意ではなかったと振り返るみずきさんは、高2で文転を決意し、保育の道へ舵を切ります。
みずきさん
「保育士っていう職業を調べていく中で、『そういう道もありだな』と思って。それで急きょ文転して、保育士をがんばりたいって夢が広がりました。」
高校2年生での進路変更。周囲からは驚かれたであろう決断でしたが、瑞希さんに迷いはありませんでした。
みずきさん
「準備はすごく遅かった方だと思います。でも、その時にあの子に出会えたのはよかったなと思って、今でも感謝しています。」
そこから保育士への道を歩み始めた瑞希さん。就職活動では、大学の先生からくうねあを紹介されました。
ーくうねあを知ったのはいつですか?
みずきさん
「大学の先生に『くすの木っていう保育園があるから、1回行ってみたら』って教えてもらって。それまでは全く知らなかったんです。」
当時の瑞希さんが持っていた保育園のイメージは、独立した建物に園庭がある従来型のもの。くうねあの形態(当時の西原園舎)は、まさに想定外でした。
みずきさん
「ビルの1階にあると聞いて、まずそこで衝撃を受けました。でも実際に入ってみると、アットホームな感じがして、子どもたちがのびのびと食べたり寝たり生活していて。『この保育園いいかも』って、なんかビビッときました。すごく感覚的ですけど(笑)」
その直感を信じてくうねあへの入社を決意。以来6年間、同じ園で子どもたちと向き合ってきました。
『対話』とふりかえりを大切に積み重ねてきた6年間
みずきさんがくうねあで6年間働き続けてこられた理由。それは何より、職場の温かい人間関係にありました。
みずきさん
「6年も働き続けられているのは、いろんな年齢層やいろんな経験をお持ちの方がいて、相談すると皆さん快く応じてくださるから。いろんな視点でアドバイスいただけて、一緒に保育できるのは本当ありがたいです。」
年齢層も経験も異なるスタッフたちが、互いに学び合い、支え合う職場環境。みずきさんはその価値を身をもって実感しています。しかし、新卒としてスタートした1年目は、その恵まれた環境を活かしきれずにいました。
みずきさん
「1年目は本当に手こずっていました。相談したいことは山ほどあるのに、『何から、誰に、どうやって相談したらいいのか分からない』という状態に陥ってしまって。自分で自分の首を絞めていたなと、今では思います。」
―どのようにしてこの状況を乗り越えたのですか?。
みずきさん
「やっぱり1年目、2年目、ちょっとずつ自分の中でできることが積み重ねで増えてきたのが大きいです。全体の見通しも立ってきて、その時々出てくる疑問を『これはこの人に聞いてみよう』って、自分の中でいろんなことの整理がついてきたんです。」
―当時1年目の自分に今の自分から声をかけるとしたら、なんと言いますか?
みずきさん
「どんな些細なことでも、とりあえず誰かに相談してみればよかったなって思っています。」
また、保育の現場だけでなく、会社の研修もみずきさんの成長に大きく影響しています。
みずきさん
「大園長先生の研修でも、『失敗つきものだけど、いいこと、悪いことだけの振り返りじゃなくて、“ じゃあ、ここで何が良かったか ”っていう、いいことと悪いことの両方の振り返りができたらいいよ』って教えていただくことがあります。落ち込んでばかりじゃダメだなって思いました。」
そして、“対話” を大切にされている点は保護者対応にも現れています。
みずきさん
「ご家庭と園では姿が違うこともあるので、まずは丁寧にお話を聴くようにしています。あとは、私はまだ子育て経験がないので、子育て経験のある先輩にも相談したりして、いろんな視点も織り交ぜてお伝えするようにしています。」
みずきさんの周りには、一人で抱え込まずチーム全体で保護者をサポートする体制も整っています。
1歳児保育のリアル ~ 言葉にならない思いを汲み取る
6年目の現在、みずきさんは1歳児クラスの主担任を務めています。言葉で気持ちを伝えきれない時期のサインに、日々目を凝らしています。
みずきさん
「今もお部屋でスタッフさんたちと話していることがあって、子どもが怒ったりすると“ 噛みつき ”などが起きます。言葉にならない思いをどう大人が汲み取っていくかっていうのが、すごく課題だなと思って、4月からずっと模索しているところです。」
みずきさんたちが大切にしているのは、怪我につながりそうになる前の変化を見逃さないことです。
みずきさん
「噛んでしまう前に、何か異変があるんじゃないかなって、よく観察するようにしています。表情の変化だったり、普段出さない発声とか。何かサインがあるって思って、スタッフたちもしっかりキャッチするようにしています。」
お部屋の環境面での配慮も欠かしません。
みずきさん
「これって子どもたちにとって本当に過ごしやすい環境なのかな、って考えることもあります。遊び込めていない、物足りなさそうな時には、置いているおもちゃを改善してみたり。大人の関わりだけでなく、環境的な要因もあるんじゃないかと、いろんな視点で振り返りをするようにしています。」
そして、成長著しい1歳児クラスでは、思いがけない出来事が日々起こります。今年特に印象的だったのが、ABCの歌のブームでした。
みずきさん
「あるお子さんがきっかけで『ABCの歌』がブームになったんです。最初は拙かったのですが、耳で覚えただけで、今ではほとんどの子がAからZまで歌えるんです。ブームになってからは、お部屋に英語が載っている図鑑を置いてみたりとか、大人も正しい発音ではないけれど、ABCを言い直したりして。今1歳児クラスで、ほとんどの子が完璧に歌えるようになりました。子どもの吸収力って本当にすごいなと感動しています。」
子どもたちの『好き』や『やってみたい』という気持ちを起点に、保育を組み立てていく。それはみずきさんご自身の『好き』と繋がることもあります。
みずきさん
「実は私、重機を見るのが好きで(笑)子どもたちの中に同じように『はたらくくるま』が好きな子がいて、『かっこいいよね!』ってすごく意気投合したんです。そこから、みんなではたらくくるまを作ることになりました。」
その制作過程もユニークです。車体の黄色い部分は、なんと玉ねぎの皮で染めた布。普段、給食の準備で子どもたちがお手伝いしてくれた皮をためておき、みんなで染め物から挑戦したのだそう。
みずきさん
「玉ねぎの皮が足りなくなったときは、他の園舎のみんなが協力して集めてくれました。園を越えて、みんなで一つのものを作り上げる。そういう繋がりも、“ くうねあならではの魅力 ”だと思います。」

記録と分析と図形が好き ― 理系らしい一面も
みずきさんからお話を伺っていて特徴的だったのが、記録と分析へのこだわりでした。理系出身らしく、データを活用した振り返りもされています。
みずきさん
「1冊のノートに1年の振り返りをまとめるんです。『去年どうだったかな』ってパラパラって見返して、内容の質が変わっていると、少しはブラッシュアップしてるなって安心します。」
保育中に撮影した写真の活用法も独特です。
みずきさん
「写真って、お便りで園生活も発信できるだけでなく、私たちの振り返りにもなるんです。『この子、こういうときにこんな表情するんだね』とか、『ここ、すごい笑ってたのに撮り損ねた』とか、いろんな使い方ができるなと思って。」
数学が得意で図形が好きな、みずきさんらしい一面も。お便りのレイアウトにも独自のこだわりがあります。
みずきさん
「保護者の方向けのドキュメントを作成するとき、私は文章よりも構図を先に考えるんです。構図ができた状態で、写真を入れて、最後に文章を入れて、完成します。ピシっと構図にハマったときは気持ちいいです(笑)」

地域密着で働き始めて6年間 ― 見えてきたもの
地元に住み、職場と暮らしが近いからこそ、スーパーで保護者や子どもと出会うことも。しかし、この状況を前向きに捉えています。
みずきさん
「恥ずかしくない自分でいるのも大事だなと思って、気をつけるようにしています。いつ会っても大丈夫なように、身だしなみも一応意識しているつもりです。」
そして、6年間勤めてきたみずきさんが特に感慨深く語るのは、長期間にわたって子どもたちの成長を見守れたことです。
みずきさん
「今年の年長さんは、自分が新卒1年目で0歳児クラスだった子なんです。西原園舎と東原園舎でずっと成長を見させてもらって、すごくありがたい経験をさせてもらったなと思っています。今年の卒園は、もう大号泣するだろうと予想しています。」
その表情には、6年間の積み重ねへの感謝と責任感がにじんでいました。
仕事を全力でがんばれるのは、アクティブな私生活のおかげ
穏やかな口調でインタビューに応じてくださったみずきさん、意外にも非常にアクティブな私生活を送っていました。
みずきさん
「休みの日は、あんまり家にいるタイプじゃないんです。逆に、オフがあるから、オンも全開っていうか。体を動かすのも好きなので、登山は結構行きます。一番動いたなと思うのは、大山(1,729m・鳥取県)に登山した後、夕方から推し(SUPER BEAVER)のライブに行きました。『あ、まだ自分体力あるな』って思いました(笑)今年はSUP(※1)にも挑戦しています。」
(※1:SUP…Stand Up Paddleboardの略で、サーフィン用のボードより少し大きめのボードの上に立ち、パドルを使って水面を進むマリンスポーツ)
このアクティブな私生活が、保育の仕事にもプラスの影響を与えているようです。
これからの展望とくうねあへの想い
今後の展望について聞いてみると、みずきさんの答えは明確でした。
みずきさん
「この仕事は続けていたいなとは思いますね。」
自分が結婚するタイプじゃなさそうなので、と笑いながらも、保育士としてのキャリアは継続したいという意志は強いようです。
―6年間働いてきたくうねあは、みずきさんにとってどんな場所ですか?
みずきさん
「子どもたちにとっても楽しいところかもしれないけど、私も生き生き、楽しく過ごせる場所。いろんな価値観の人と助け合えて、相談し合って、チャレンジしやすい環境だと思います。」
編集後記
等身大の6年間を語ってくださった、みずきさん。特に印象的だったのは、『対話』という言葉を何度も口にしていたことです。「保育の仕事も、プライベートも、いろんなことに通ずるから、対話って大事だなって、本当にこの会社で学びました。」
また、記録をきちんと取り、データに基づいて振り返りを行う一方で、『ビビッときた』瞬間も大切にする。準備を入念に行いながらも、予測不可能な子どもたちとの日々を楽しんでいる。そのバランス感覚の良さが、6年間の積み重ねと充実した保育につながっているのだと感じました。
ライタープロフィール
- 石井さん[PTA 会員No.002]※
- 2010年・2015・2017年生まれの三人の息子の母です。2013年に長男がくすの木保育園に入園したことをきっかけに、次男三男の卒園まで計11年間、我が子がくすの木保育園で過ごしました。卒園後も古民家で引き続き保育園時代のご家族と交流させてもらっています。今後はくうねあWebマガジンの執筆を通して、長年子どもたちがお世話になったことへのご恩返しができればと思っています。
趣味はお片付け。毎日三人の息子たちと戦いながらおうちを片づけています。
※PTAとはParents Team Authors(執筆・保護者チーム)の略で、執筆を引き受けてくれた保護者の方たちのチーム名です。