Initiativesくうねあの取り組み
【くうねあ初期メンバーへのインタビュー】最年少マネージャー・えみりさんのお話
くすの木保育園が西原に開設されて、今年で丸13年―。
開園当初から保育士として在籍されている、藤井えみりさん(西原園舎・主任)にお話を伺いました。
えみりさんは、保育園の創立初期メンバーとして長年活躍し、当時最年少で主任となった経験を持つ保育士です。保育園の立ち上げ期のエピソードや、マネージャーとして大変だったこと、そしてこれからくすの木の保育で大切にしていきたいことなどを伺ってきました。
最初の面接はなんと大園長先生のご自宅。本当に何もない所から始まった保育園の立ち上げ。
くすの木保育園が始まったとき、保育士さんは2人でした。そのお一人だった、えみりさん。インタビュアーも驚きの創業エピソードを教えてくれました。
えみりさん
振り返ってみると、今ではなかなか経験できない貴重な体験をさせてもらったと感じます。くすの木保育園の創業当時、私は西原園舎のすぐ近くで一人暮らしをしていました。自宅近所で保育士の求人を探していたところ、くすの木保育園を見つけて応募したんです。でも、住所を調べて現地を回ってみても保育園らしき建物が見つからなくて…。『ここが保育園の住所のはずだけど、何もないよね?』って驚きました。そして面接のお知らせをいただいたとき、伺ったのが大園長先生のご自宅だったんです。事務所代わりにされていたご自宅の一室で面接を受けました。
ー大園長先生のご自宅に行かれたのですか?
えみりさん
はい、オートロックをピンポンして。正直、最初は少し緊張しました。(笑)でも、みゆきさん(大園長先生の奥様)が迎えてくださり、ホッとしたのを覚えています。
ーまさに保育園の立ち上げから関わってこられたんですね。
えみりさん
そうですね。大園長先生のご自宅で、『これからどうやって保育園を運営していこうか、給食はどうしようか』などのお話をしました。当時は、よもぎのアトリエさんのお弁当を頼んでいましたが、『自分たちでも作りたいよね』という話になって、先生のご自宅のキッチンでみんなで少し調理してみたりしました。
ー大園長先生のご自宅のキッチンで給食を試作されていたんですか?!
えみりさん
はい、そんなこともありましたね。今思えば、保育園の立ち上げでそんな経験をする機会なんて、そうそうないと思います。とても貴重な経験をさせてもらったなと感じています。2011年12月1日に保育園が開園しましたが、その前に私はすでに入社していました。その1年後、園長の空本くみさんが入社され、そこから出会いが広がって、今でも信頼できる初期メンバーが揃いました。
ーまさに初期の初期メンバーですね。クミさんよりも先に入社されていたんですね。
えみりさん
そうなんです。最初の保育士として採用していただきました。
ー既にある保育園に就職するのではなく、立ち上げ途中の保育園へのご就職ということで、不安などはありませんでしたか?
えみりさん
そうですね。当時の私はまだ20代前半で、保育士の資格は持っていたものの、異業種(サービス業)で働いていたので。何もわかっていなかった分、不安も感じていなかったのかもしれません。今の私だったら、昔の私に『結構すごいチャレンジだよ』って言ってるかもしれないですね。(笑)
ーなるほど。当時の保護者の方々は、そんな創業時の裏話を知らないかもしれませんね。園児さんは最初、何人いらっしゃったんですか?
えみりさん
まーくん(大園長先生のご子息)とやすよさん(元スタッフ)のお子さん、2人だけでした。最初はダンボールでキッチンを作ったりして遊んでいたと思います。それから園児募集のポスターをみんなで作って、近所のローソンに『掲示してもらえますか?』とお願いしに行ったり、大園長先生が産婦人科に営業に行かれたりして、少しずつ園児が増えていきました。
ー本当に小規模から少しずつ作り上げられてきたんですね。
えみりさん
そうですね。当時は無認可で、補助金も今より少なかったので、大園長先生も大変だったと思います。でもその分、自由度は高かったのではとも思っています。
ー東原園舎や祇園園舎、お山園舎ができたときと比べて、違いはありますか?
えみりさん
だいぶ違うと思います。東原などは、すでにくすの木保育園の理念や大事にしているものが確立していた状態から新たな園を作ったので、プレッシャーや別の大変さがあったと思います。一方、西原園舎は何のしがらみもなく、前に進むしかないという感じでしたね。
ー立ち上げ時期に一緒にいたメンバーとのエピソードや思い出はありますか?
えみりさん
空本くみさんが来てから、スタッフ一人ひとりの保育に対する思いや大切にしたいことがしっかりと形になってきました。私にとっても、そこからがくすの木保育士としてのスタートだと感じています。くみさんが来る前は、日々を安全に過ごすことや、世間が思う保育園での学びを実践していたように思います。落ち着ける場所を作りたいとか、温かみのある保育を目指すようになったのは、その頃からです。今では、まゆかさん(お山園舎・主任)、やすよさん、けいこさん(戸坂園舎)、なみさん(戸坂園舎)、ひさえさん(東原園舎・主任)など、信頼できる仲間が増えてきました。
ー大切にしたいものが似ている方々が仲間になってくれたということですね。
えみりさん
そうですね、そうだと思います。
ー保護者から見ても、大事にしている価値観が共通している方々が集まっているのでしょうね。素敵な先生たちが集まる場所になってきているのではないでしょうか。
えみりさん
創立から十数年が経ち、くすの木保育園の特徴や大切にしていることが外部の方にもわかりやすく伝わっていると思います。それに共感して応募してくださる方も増えていますが、一方で、入社後に自分のキャリアや実績とのギャップを感じている方もいるのではないかと思います。保育園だけでなく、一般企業でも理念に共感して集まった人々が、会社の目指す方向と自分のキャリアとのギャップを感じることがあるのではないでしょうか。くすの木保育園でも、同様の課題があるのかもしれません。
史上最年少(当時)で主任となったえみりさん。大変だったことや気をつけていたこととはー
ーなるほど。そのまま話題をスライドして…、お話にあったように、スタッフが徐々に増えて、えみりさんが主任に就任された当時のことを伺いたいです。保育園の目指す方向性とスタッフ自身の実績や経験とのギャップなどもあったと思いますが、大変だったこと、むしろ今も大変だと感じることはありますか?
えみりさん
今、インタビューを受けながら振り返ると、入社当初から恵まれた環境にいたと感じることが多いです。一般的な保育園がどのようなもので、立ち上げがどれほど大変かはしっかり理解していなかったため、がむしゃらに頑張ってきました。主任になった時も、選んでいただいたことへの感謝と、ただただ頑張りたい。その気持ちでいっぱいでした。その頃は保育園で初めて園長先生以外の役職ができ、これから組織の形を作っていく段階でした。ただ、現場経験の浅い私がマネージャーになったことで、スタッフの方々が『もしかしたらこの人は主任になったことを100%いいと思っていないかも』と感じた場面もありました。でも、納得していないと思われるスタッフに『私にもこんな強みや良いところがある』ということが伝わればいいなと思って、スタッフの方々と接してきました。当時を振り返ると、表には出さないけれど、裏では負けず嫌いな一面もあったのかなと思います。
ー私も保育園の実態はあまり知らないのですが、園長先生と先生だけがいるイメージがあります。経験年数の長い先生が若手の先生を指導している印象でした。だから、役割が明確に分かれたことに数年前に驚きました。一般的な保育園のイメージが階層化され、役割が変わったりすると、当時周りの人も最初は戸惑いなどがあったのではないでしょうか。
えみりさん
スタッフの方々がどう感じていたかはわからないですが、くすの木保育園は他の園に比べて役職による大きな差はなかったと思います。ただ、マネージャーは大園長先生の仕事の一部を引き継ぐため、若手の私がこんな大役を任されていいのかなという気持ちもありました。
ーちなみに、マネージャーになると現場で保育する時間は減りますよね。子どもと触れ合いたい方や現場主義の方もいらっしゃると思います。子どもが好きで保育士になり、その仕事に就いて…でも気づいたらその場所から違うところへ進んでいたということもなかったでしょうか。当時の気持ちはいかがでしたか。
えみりさん
やはり主任より担任を持つ担当の方が園児との距離が近く、信頼関係を築けるため、寂しい気持ちももちろんありました。しかし、まったく関わらなくなるわけではなく、スタッフの誰かが休んだり、給食の補助などで人手が足りないときはお部屋に入っています。また、担当経験が少ないまま今のポジションにいるため、保育の現場の勉強は今後も続けていく必要があると思っています。
ー新しい場面や大変なときでもすべて前向きに捉えて行動されていて、園長先生も安心して任せられていることが伝わってきます。
えみりさん
最初は『この子、大丈夫かな?』と思われていたかもしれません。もしかしたら今も。(笑)でも、くすの木と一緒に成長させてもらったなと感じています。
ー実は、大園長先生に事前にインタビューしておりまして、マネージャーとしても期待通りに活躍されているとフィードバックをいただきました。今回のインタビューで私もその通りだと感じました。
えみりさん
大園長先生から見れば、入社してきた小娘が少しずつ大人になり、結婚し、母になっていく姿を見ていただいた気がします。少しは大人になったでしょうか。
ーあとは面白いエピソードも伺いました。大園長先生がえみり先生のお弁当を勝手に食べたと。
えみりさん
はい、そうです。大園長先生が食べてしまいました。当時、私は自宅が近くてお昼に弁当箱ではないような食事を持ってきていたのですが、間違えられて食べられました。(笑)
ー今思えば、よく辞めなかったとおっしゃっていました。
えみりさん
確かに。あと、大園長先生とは、主人と結婚する前に3人でご飯に行ったことがあります。
ーなんと、お父さんのようですね!!
えみりさん
本当に広島のお父さんのような方です。いや、お父さんでいいのかな、お兄さん?親戚の叔父さん?
ー結婚の承諾に、えみりさんのご両親だけでなく、大園長先生という関門があったのですね。ご主人も緊張されたことでしょう。
くすの木保育園におけるマネージャーとはどのような役割かー
ーそれでは、くすの木保育園でマネージャーをやってきたからこそ、マネージャーの役割についてえみりさんが思っていることを聞かせてください。
えみりさん
インタビューに答えている今、大園長先生やくみさんから直接『こうしなさい』と指示された記憶がないことに気づきました。しかし、お二人の姿を見て自然と『こんな人になりたい』と思うようになりました。お二人とも、スタッフの見えないところでもいろいろ考えて動かれていました。いつか私自身も、大園長先生やくみさんのように周囲から信頼され、尊敬されるマネージャーになりたいと思っています。そのためには、私も同じように『こんな人になりたい』と思ってもらえる行動をしていかないと、何を言っても説得力がなく聞こえてしまうと思います。また、職場の役割としてだけでなく、一人の人間としても共感して目指してもらえる人になっていかないといけないなと思うようにもなりました。
ー指示を出すのではなく、えみりさんの行動や姿勢を見て共感してくれるスタッフを増やしていきたいという感じですね?
えみりさん
自分の行動や姿勢に共感して目指してもらえるマネージャーになりたいという気持ちももちろんありますが、同じポジションでもいろいろな人がいるからこそ、ピラミッド型ではなくプラネット型(※)のチームを目指しています。例えば、私と同じ主任のひさえさんがいますが、性格も違うし、同じことを伝えるにしても言い方が異なると思います。スタッフによっては私の伝え方が伝わりやすいこともあれば、ひさえさんの方が適任であるときもあります。何かあればマネージャーとして責任を取ることに変わりはないですが、個々の強みを活かしながら、お互いを補完し合う関係になればいいと思っています。
(※)プラネット型…メンバーが縦方向ではなく横方向につながり合い、課題に応じてリーダーが流動的に変わるチーム体系。プロジェクトごとにその案件を得意とする人がリーダーになる。
ーいいですね。その人その人の長所があって、適材適所という言葉があるように、それを大切にされていますね。
えみりさん
言葉にするとそうなのですが、日本の潜在意識からか、トップダウンになってしまうこともあります。急にプラネット型にしようとしても、馴染むのは難しいのもわかります。でも、保育の現場では、子どもたちの得意不得意を理解して『ここを伸ばしてあげよう』という考え方が主流になってきています。私たちが子どもたちに実践していることを、大人の世界でも実践できたらと思います。
ーなるほど。園児さんたちだけでなく、一緒に働く大人にも保育の世界と同じ考えが浸透すれば良いですね。保育士は専門的な知識が必要で、命を預かる責任もあります。その上で、今回えみりさんにお話を伺って、理想の組織像を見据えていることがとても尊い仕事だと感じましたし、私自身も多くのことを学ばせていただきました。
最後に、保育園の立ち上げや最年少マネージャーとしての経験を通じて、挑戦したいことや将来の目標などはありますか?「この先、こうなったらいいな」という思いや、ちょっと内に秘めている願望などあればお聞かせください。
えみりさん
子どもの手が離れたら…ただ、その時期が来るまではまだまだ時間がかかりそうです(えみりさんは現在、5歳と3歳のお子さんのお母さんです)。もし子どもが手を離れたら、保育以外で自分のできることを身につけて、保育の現場に取り入れたいと思っています。先輩方にはじゅんさん(西原園舎)や、まりさん(元スタッフ)、くみさんがいて、それぞれ素敵なスキルをお持ちです。例えば、じゅんさんはカラーセラピーや数秘術、まりさんはフラワーアレンジメント(卒園式のコサージュ作成も指導)、くみさんは絵も得意でくすの木保育園のロゴも手がけています。もし私もそんな強みがあれば、保護者や地域の方々との新たな接点になるのではないかと思っています。まだ10年ほどは子育てに忙しい日々が続くと思いますが(笑)
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。えみりさんには、長男が2歳の時から10年以上お世話になっており、当時のエピソードや現在も大切にされていることを伺えて、とても嬉しく思いました。そして、私自身も社会人としていろいろ学ばせていただきました。これからも、えみりさんのような人柄と情熱を持った保育士の方々が保育現場で活躍されることを願っています。
えみりさんについて、大園長先生にもインタビューしました
ーえみりさんの入社当初の印象や思い出をお聞かせください。
大園長
最初に履歴書を見たとき、平成生まれということに若さを感じました。また、経歴をみるとサービス業の経験もあって、これから立ち上げる保育園の保育士に適任だと思いました。その期待は二回目の面談で確信しました。初回で私が紹介した書籍を早速購入して読んでくれていたんですね。それで『この子を仲間にしたい』と思い、期待が高まりました。しかし、開園当初は本当に何もない園で…想像以上にギャップもあって苦労させてしまったのではないかと思っています。もちろん、不平や不満もあったと思いますが、何も言わずに頑張ってくれました。
ー当時、最年少で主任に抜擢されたきっかけを教えてください。
大園長
まず、空本くみさんを園長にして現場を任せ、主任を誰にお任せしようかということでスタッフたちにヒアリングしました。その結果、えみりさんが適任という声が一番多かったんです。それが決め手で依頼しました。
ーえみりさんがマネージャーになってからの変化もお聞かせください。
大園長
入社当初に抱いた印象そのまま、活躍してくれています。ご結婚されて二児のお母さんとなってからも、家事や育児に忙しく大変な日々を送りながら、そうした経験を糧にしてマネジメント力を発揮しています。