Initiativesくうねあの取り組み

2025.07.02

子どもと関わる仕事が諦められなくて - くうねあのベビーシッター事業を支えるプロフェッショナル・篠田さんのお話

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保護者ライター執筆
この記事は、くうねあの園児・卒園生の保護者の方に取材・執筆を行なっていただきました。

広島市を拠点に、地域の子どもたちとそのご家族を支えるベビーシッター事業も展開するくうねあ。今回はその責任者である篠田朱見さんに、子どもに関わる仕事を選んだ経緯から、シッター事業の実際の現場、そして日々感じる想いまでをじっくり伺いました。

接客業から子どもと関わる仕事への転身

篠田さんは現在、くうねあのベビーシッター事業『アンファンス』の責任者として活躍されています。しかし、くうねあに入社する前は、異なる業界で長く接客業に勤めていました。

篠田さん

「100円ショップや薬局で接客業をしていました。20歳から約12年間ですね。」

もともと子どもが好きだった篠田さん。幼い頃から幼稚園の先生になる夢を抱き、中学生時代の職場体験でその想いを一層強くしました。しかし、諸事情により一度はその夢を断念。転機が訪れたのは、2014年に埼玉で起きたベビーシッターの事件でした。

篠田さん

「あの事件をきっかけに、ベビーシッターという仕事の存在を初めて知りました。その後『広島にもないかな』と探したところ、偶然くうねあを見つけたんです。」

最初の面接では、事業が始まったばかりという理由で不採用に。それでも諦めきれず、ハローワークで再度募集を見つけ、再び面接に臨みました。

篠田さん

「その時に社長(堀江さん)が私のことを覚えていてくださっていて、『じゃあもう採用だね』って即決してくださったんです(笑)」

「初めまして」の家庭を繋ぐ、篠田さんのお仕事

今や広島市内に多くのシッターが在籍するくうねあ。篠田さんは、各ご家庭とシッターを繋ぐ最初の窓口となります。

篠田さん

篠田さん

「最初に私がご家族と面談をして、必要な情報を細かくヒアリングし、シッターに共有します。ご家庭の特色、お子さんの特性、親御さんのご希望など、初回はシッターにとっても“ぶっつけ本番”。だからこそ、私がどれだけ詳細な情報を引き出せるかが重要なんです。」

ご家庭ごとに、シッターとの相性も慎重に考慮します。

篠田さん

「例えば、初めてのご出産で不安を抱えるお母さんには、ご自身も子育て経験が豊富な、柔らかな雰囲気のシッターさんを。フレンドリーなご家庭には、親しみやすい人柄のシッターさんを、といったように、最適なマッチングを心掛けています。」

こうした丁寧な橋渡しが、くうねあならではの安心感を生んでいます。
さらに、シッターを派遣した後も、必ず感想を伺い、情報を更新していくそうです。

篠田さん

「初回の面談では遠慮して話せなかったことも、シッターがご家庭に入ってから本音として出てくることもあります。ですから、必ず保護者の方とシッター双方に感想を聞き、フォローアップを行っています。」

利用後のフォローアップでご家庭の想いを丁寧にすくい上げることが、『次も安心して頼みたい』という信頼関係へと繋がっているのです。

おうちの中だけじゃない、多彩な保育のカタチ

くうねあでは、個人宅への訪問だけでなく、イベント託児にも力を入れています。これまでには『お祭り保育』や『リトミック(*1)保育』、さらには『体育の授業』といったユニークな企画も取り入れてきました。

(*1)音楽と身体の動きを組み合わせて、音楽的感性やリズム感、表現力、集中力などを育てる教育法

ー『お祭り保育』のようなアイデアはどこから生まれるのですか?

篠田さん

お祭り保育は社長 (堀江さん)のアイデアがきっかけです。くうねあでは月に一度、スタッフの誕生日会を開くのですが、毎回社長(堀江さん)が法被を着てお祝いしてくれます。その流れで『こんなイベント、子どもたちにも喜んでもらえるんじゃない?』という話に発展し、実現しました。」

ーシッターサービスというと、おうちや託児スペースで静かに遊ぶイメージが強かったのですが、本格的なイベントも開催されるのですね。

篠田さん

「そうなんです。社長(堀江さん)のイベント保育のモットーは、『また来たい』『また遊びたい』と思ってもらうこと。そのために、子どもたちが退屈しないような企画を常に考えています。」

篠田さん

ー他にも印象に残っている保育や、特に思い出深いエピソードはありますか?

篠田さん

「はい。県外から広島に帰省されるご家庭からのご依頼で、毎年夏にファミリープール(広島市中区基町)へお子さんたちをお連れしたことですね。もちろんシッターも一緒に水着で入るので、『水着どうする?』なんて事前にみんなで相談したりして(笑)。動物園に同行したこともあります。」

ただお子さんをお預かりするだけでなく、“その一日が楽しい思い出になるように”。そんな温かい想いが伝わってきました。

もっとシッターを気軽に利用してほしい ー 利用を迷われている方へ

シッターの利用に対して、『裕福な家庭だけのもの』というイメージや、『働いていないのに利用していいの?』といった声も聞かれるといいます。

篠田さん

「利用を決めて来られる方だけでなく、『とりあえず話を聞くだけでもいいですか?』という方も大歓迎です。やはり、説明会に参加=入会しなくてはいけない、と思われがちなので、『まずはお話だけでも大丈夫ですよ』とお伝えしています。その上で、ご夫婦でしっかり話し合っていただきたいですね。それから、おじいちゃんおばあちゃんの理解を得ておくことも大切です。過去には、事情を知らない祖父母の方が突然来られて、シッターを見て『あなたは誰?』と驚かれたケースもありました。そうした経験から、ご家族への事前のご説明をお願いしています。」

ー利用を迷われている方に、特に伝えたいことはありますか?

篠田さん

「『専業主婦なのですが、利用していいですか?』と尋ねられることもありました。もちろん、大歓迎です。ご自身のリフレッシュのために、ぜひ利用してくださいとお伝えします。ご夫婦でラーメンを食べに行くのが好きだから、と預けられる方もいらっしゃいますし、ネイルや美容院に行くために利用される方もいます。利用理由は問いませんので、ご自身の時間を作るために気軽に活用してほしいですね。」

「子どもが好き」を仕事にしたい人へ

さらに、子どもと関わる仕事をしたいと考えている人に向けて、こう語ってくださいました。

篠田さん

「シッターは随時募集していますが、個人宅への訪問には資格が必要です。でも、くうねあのイベント保育なら資格がなくても大丈夫。子どもが好きで、オムツ替えなどに抵抗がなければ、ぜひ応募してほしいです。初めてだと『私にできるかな』と不安に思うかもしれませんが、イベント保育には必ず私もいますし、ベテランのシッターも一緒です。一人で大勢の子どもを見るようなことはないので、勇気を持って飛び込んできてもらえればと思います。私も最初は民間資格しか持っておらず、『本当に務まるだろうか』と不安でした。でも、社長(堀江さん)が『子どもが好き、という気持ちだけでいい。知識は後からついてくるから大丈夫』と言ってくださり、入社後に実務と並行して資格を取得しました。他にも、くうねあには入社後に独学で保育士や子育て支援員の資格を取ったスタッフがいます。」

資格がなくてもイベント保育からスタートし、少しずつ経験を積んでいける環境が、ここにはあります。
そして、所属するシッターへの定期的なサポートも欠かしません。

篠田さん

「定期的に研修を行っていますが、先日、何人かのシッターさんから『もっとざっくばらんに話せる会議を開いてほしい』という要望があって、来月、研修を兼ねた座談会を開くことになりました。私自身も、他のシッターさんから学ぶことが多いんです。」

また、スタッフ一人ひとりが自分のペースで働ける柔軟な体制が整っています。

篠田さん

「くうねあは、かっちり決まったシフト制ではなく、自分の生活スタイルに合わせて勤務できるのが特徴です。お休みも取りやすいですね。社長(堀江さん)も『お父さんお母さんを支援したいという想いを持つ人に、浅く長く続けてもらえたら嬉しい』とよく話しています。まさに “浅く長く” 働ける環境だと思います。」

篠田さんの素顔に迫る──オンとオフの切り替え術

長年、接客業に携わってきた篠田さん。人と接するのは得意な一方で、実は「人見知り」な一面もあると明かしてくれました。

篠田さん

「実は私、すごく人見知りなんです。今でこそ仕事モードのスイッチが入れば大丈夫ですが、幼い頃はいつも親の後ろに隠れているような子でした。」

ー初めてお会いした時から全くそんな印象を受けませんでしたが、接客業のご経験を通して変わられたのですか?

篠田さん

「最初に10代でアルバイトしたディズニーランドやマツモトキヨシでの経験が大きかったですね。言葉遣いや姿勢、目線、所作などを厳しく教えていただきました。そこで、お客様が何を求めているのかを瞬時に察する力も鍛えられたのだと思います。」

ー責任ある立場だからこそ、プレッシャーも大きい仕事なのではと思います。気分転換やストレス解消法はありますか?

篠田さん

「移動中の車内で大音量の音楽をかけながら、一人で熱唱することです。家でも、テレビを観ながら一人で歌ったり踊ったり。それを見た母に呆れられています(笑)」

さらに、小学生の甥っ子さんたちとの時間も、大切な癒しになっているそうです。

篠田さん

「小学1年生、3年生、5年生の男の子なんですけど、時々、悩みを聞いてもらうんです。すると、大人とは違う子ども目線の答えをくれる時があって。特に本をよく読む小学5年生の甥は、『こうした方がいいんじゃない?』なんて、小学生なりの真剣なアドバイスをくれます。甥っ子たちの前では、唯一私が “バカ” になれるんです。一緒にはしゃいでいると、それを見てまた家族に呆れられていますけど(笑)」

そんな日常の温かい時間が、現場で毎回異なる家庭や子どもたち一人ひとりと誠実に向き合う力になっているのかもしれません。

篠田さん

篠田さんにとってのくうねあ

インタビューの終盤、長年事業を共にしてきた社長(堀江さん)について伺いました。

ー社長(堀江さん)とも長いお付き合いだと思いますが、何か印象的なエピソードはありますか?

篠田さん

「今まで出会った上司の中で、一番深く気にかけてくれる方だと思います。仕事のことだけでなく、私の家族のことまで心配してくれる上司なんて、他にはいませんでした。体調を崩して休んだ時も、休暇中は静かに見守ってくれて、復帰した日に『無理しないでね』と優しく声をかけてくださって。」

篠田さんの体調や家族にまで温かく心を寄せる社長(堀江さん)。その存在は、心から信頼できる上司そのものであることが伝わってきます。
一方で、こんなユーモアあふれる一面も。

篠田さん

「時々、出張がある社長(堀江さん)を最寄り駅まで送ることがあるんですけど、車の中で急に福山雅治さんのモノマネを始めたりするんです(笑)二人きりの時は、よく冗談を言って和ませてくださいます。」

お二人の楽しげなやり取りを想像していると、篠田さんは真剣な表情になって続けてくださいました。

篠田さん

「そして、『すみません、ちょっとご相談いいですか』と声をかけると、どんな時でも必ず手を止めて、向き合って話を聞いてくれるんです。これは本当にすごいことだと思います。これまでの上司は、何かしながら話を聞いてくださる方が多かったので。私が声をかけようか迷っていると、その変化に気づいて社長(堀江さん)の方から『最近どう?』と声をかけてくださることもあります。色々な職場を経験してきましたが、10年以上続いているのはこの会社が初めてです。」

「10年以上続いているのはこの会社が初めてです」──その言葉が、すべてを物語っていました。くうねあは篠田さんにとって、信頼できる仲間と共に、自分の想いを形にできるかけがえのない場所なのです。 「子どもが好き」という原点を胸に、やりがいと安心感を持って働ける職場との出会いが、今の篠田さんを支えているのだと感じました。

[編集後記]

インタビュー当日、インタビュアーが到着する前から玄関先で静かに待っていてくださった篠田さん。そのお姿に、相手を思いやる優しさと、誰に対しても誠実に向き合う姿勢がにじみ出ていました。 「子どもと関わる仕事を、諦められなかったんです」──その熱い想いは、今やくうねあのシッター事業を支える大きな力となり、多くの家庭とシッターを繋ぐ、温かい架け橋となっています。

ライタープロフィール

石井さん[PTA 会員No.002]※
2010年・2015・2017年生まれの三人の息子の母です。2013年に長男がくすの木保育園に入園したことをきっかけに、次男三男の卒園まで計11年間、我が子がくすの木保育園で過ごしました。卒園後も古民家で引き続き保育園時代のご家族と交流させてもらっています。今後はくうねあWebマガジンの執筆を通して、長年子どもたちがお世話になったことへのご恩返しができればと思っています。
趣味はお片付け。毎日三人の息子たちと戦いながらおうちを片づけています。

※PTAとはParents Team Authors(執筆・保護者チーム)の略で、執筆を引き受けてくれた保護者の方たちのチーム名です。
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