Initiativesくうねあの取り組み

2024.01.26

多様な世代の働き方

株式会社くうねあが運営する保育園には、園児同様、働き手も多様な人たちが集まっています。元保護者、60歳以上、シングルマザー、ダブルワーク…人手不足が常態化している保育業界で、なぜこんなにも多様な人が集まり、採用がうまくいっているのでしょうか?その秘訣を働き手から掘り下げていくのが今回のコラムです。第二弾は、ベテラン保育士2名、黒川良子さん(61)と杉原真智子さん(61)に話を伺いました。(第一弾の記事はこちら

黒川さん
杉原さん

郵便局と保育士のダブルワーク!?

くうねあには60歳以上のベテラン保育士がなんと10名以上も在籍しています。黒川さんはフルタイムの正社員、杉原さんは郵便局とのダブルワークでパートの保育士として勤めています。

昨今の保育士不足によってシニア世代の保育士の需要は高まっています。とはいえ、もともと肉体的にも精神的にもハードな保育士の仕事を、60歳を過ぎてエネルギッシュに続けられている原動力はなんでしょうか?

朝は8時から郵便局、午後15時頃から閉園時間まで保育園勤務というタフなスケジュールをこなしている杉原さん。周囲からは、「働き過ぎ、体壊すよ」と心配されるそうです。

杉原さん

毎朝大量の郵便物を集めて、整理して、配って歩いてどんどん空っぽにする作業が自分の性質に合ってるんです。保育園での仕事を終えて家に帰ってきたら、エネルギーが切れてバタンって感じですが、1日の終わりの達成感を味わいながらペットに癒されて、明日からまた頑張ろうって思えるので、自分のなかでは無理してるイメージはないです。

黒川さん

私は子どもが大好きで、子どもといることで幸せな気分になれます。例えば、一般企業で大人とのやり取りしかなかった場合、その過程で嫌なことがあったらそのまま嫌なことで終わってしまうと思うんです。でも、そのようなときでも子どもと関わることによって、ふとしたことで笑顔になれるし気持ちが和らぎます。

世代を超えた助け合い

子どもが好き、保育の仕事が好き。そこに加えて、第一弾の記事でも話題にあがった、くうねあに根付いている助け合いの文化も働きやすさに繋がっています。

黒川さん

私たちの世代は子育ても終わっているので、どちらかというと何かあったときにヘルプに回る機会が多いのですが、 先日、91歳になる母が怪我をして突然休まないといけなくなりました。そのとき快く休ませていただいて。子育て世代の方が突然お子さんが病気になって休まれるときと、私が介護のために休むのは何も変わらないんです。

さらに、大園長の言葉を思い返します。

黒川さん

今子育てを頑張ってる人も、最終的に次の世代の人を助けてあげられる世代に上がってくるから、そこは同じ会社で働く仲間として助け合っていけるような職場にしたいと話していました。私が子育てしていた昔の時代にもこんな職場があったらよかったなぁと。

一方で、同じ日に職場から職場へと移動が発生する杉原さんは、とにかく毎日”時間”に対するプレッシャーと不安があったそうです。

杉原さん

郵便局も忙しくて、スタッフに休みが出たりすると次の保育園の勤務時間に間に合わない日も多々あるんです。そんなときも周りのスタッフは、「大変でしたね、大丈夫でしたか?」ってまず私の心配してくれて。両方の職場に挟まれているので、遅刻の心配はつきものですが、何かあっても気負わずに「すみません、遅れます」って言えるのが心理的にも助かっています。じゃあ次は私が誰かの助けに出よう、とかそういう気持ちになりますね。

「もう」じゃなくて「まだまだこれから」

とても周囲から頼りにされ、大事にされているベテラン保育士のお二人。どこかで引け目を感じてしまっていた年齢についても、ここでは気にせずに生き生きと働けるようになったと2人は話します。

杉原さん

私も年取っていたら、あまり使えないと思われるんじゃないかと思っていました。でも大園長からは、口癖のように「人生100年時代だから。まだ学びなさい」と言われます。私が”もう”、って言うと必ず「”もう”じゃありません、今からです。」と訂正されたり(笑)。そんなふうに言っていただけると、未来に希望が持てるというか、まだまだ頑張れるんじゃないかと思えるんです。苦手なパソコンもやってみようかなとか。でも、本当に日々保育園で子どもや父兄やスタッフと接していると、知らないことだらけで毎日勉強だなと思います。

くうねあが運営する保育園では、特に定年は設けていません。杉原さんが55歳で大園長の面接を受けたときのエピソードを教えてくれました。

杉原さん

面接のときも、先が短いんですけど…のようなことを言ったら、「体が動く限り来ていただいていいですよ」と。さらに言うと、大園長もいろんなインフラを考えていて、もし動けなくなくなったり頭が回らなくても、保育園が経営するカフェとか子ども服のお店などを増やしていったときには、そこで子ども服包むだけでも仕事なんだよっておっしゃってくださって。実際にそこまでのことはまだ難しくても、大園長の優しい言葉に救われました。

黒川さんは、上下関係についても言及してくれました。

黒川さん

くうねあは、年齢や年次、どっちが上とか下とか関係なく、みんなが同じ”仲間”として見てくれているのがいいと思います。私も年齢はみんなより上ですが、くうねあでは4年目。私より長い期間働いている若いスタッフに色々と教わる機会も多いです。以前働いていた園だと、何か物事を決めるときも、上が決めて下に降りてくるっていう感じでしたが、ここでは全員で課題を出し合って、話し合いをしてから決めます。

一方で、やはり同世代の存在は心強いものです。一緒に悩んだり、共感したり…ほっと安心できる居場所なんだと杉原さんは話します。

杉原さん

なにか迷ったときや違和感を感じたときも、世代が一緒だからか阿吽の呼吸で分かり合えたりします。そういうときに少し落ち着いたり、やっぱり間違ってなかったねって再確認できたりとかできるので、同世代がいてくれるとほっとしますね。

階層別研修、世代間の理解を促進

くうねあでは、毎年3、4回、スタッフの年齢に応じた階級別研修も行います。年齢や世代関係なくみんなが安心して楽しく働くためには、世代間の価値観やコミュニケーションの方法を互いに理解し合う必要があるからです。

黒川さん

時代はどんどん変わっていて、私たちが子育てしていたときとはありとあらゆることが異なります。でも、間違いなく育児は自分も通ってきた道ではある。だから、例えば保育士のママが子どもの体調不良で早退しないといけなくなったときなども、自分が子育てしていたときのことを思い出して相手のことを思えば助けたいし、研修を受けることによってより理解が増しました。

また、同じ1つの問題を見ても、若い人から見るのと私たち世代が見るのとでは視点が違う、というような保育だけの話ではないことも話してくださって、価値観や視野も広がりました。

杉原さん

私たちは、みんなのお手本にならないといけない世代なんだということを改めて自覚します。若い人は、上の世代に何か思うことがあっても言いづらいんですよ。なので、自分たちは自分たちで律しないと、この先誰も注意してくれないよって言われます。

あと、研修ではプロフェッショナルな保育というより、子どもを育む空気感を大事にしています。保育士って”仕事をこなす”感覚はなくて、子どもを育てているんですよね。私は、ある意味日本の未来を育ててるんじゃないかと自負しています。

今の子たちが30歳くらいになって、巡り巡って私たちの老後を見てくれるような優しい子たちに育ってくれたらいいなとも思いますし、その子どもたちのお手本となる私たち大人一人一人が、その空気感を発せれるような職場であって欲しいなと思っています。

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