Initiativesくうねあの取り組み

2024.01.26

子育て世代の働き方

株式会社くうねあが運営する保育園には、園児同様、働き手も多様な人たちが集まっています。元保護者、60歳以上、シングルマザーダブルワーク…人手不足が常態化している保育業界で、なぜこんなにも多様な人が集まり、採用がうまくいっているのでしょうか?その秘訣を働き手から掘り下げていくのが今回のコラムです。第一弾は、シングルマザーの保育士2名、山口あかりさんと奥田千歳さんに話を伺いました。

山口さん
奥田さん

「お母さんは1人だけ、行っておいで。」

山口さんと奥田さんは、小学生と保育園に通う子どもを持つ2児のママ。シングルマザーでありながら、育児との両立が難しいと言われている保育士としてくすの木保育園で日々働いています。

「大変そう」「働きにくそう」そんなイメージを持たれることが多いと思いますが、2人がこれまで働き続けてこられたのは、園のサポート体制や助け合いの文化が浸透しているからだと話します。

奥田さん

ある日、自分の子どもの預け先の保育園から電話がかかってきて早退しないといけなくなりました。急に1人いなくなったら大変だと思うんですが、「お母さんはあなた1人だけ。こっちはなんとでもなるから行っておいで」という言葉をいただいて。とても嬉しかったです。

山口さん

スタッフも子どもがいる家庭の方が多いので「あるあるだよね」って感じ。人手が足りないお部屋があったら、他のお部屋のスタッフがフォローに入ったりして、みんなで助け合うというのが当たり前になっていますね。

さらに、山口さんは続けます。

山口さん

先日、1週間ぐらい体調不良で休んでいた新卒の保育士に対して、「頑張ってたもんね。ゆっくり休んでくださいね」って周りが言葉をかけてたんですよね。育児中のママ同士であれば、さっきの「お互いさま」みたいなところがありますが、子どもがいるかどうかは関係なく、新卒の方にも同じように接しているところもいいなと思いました。

くすの木保育園は、広島市内に5園あります。本当に人手不足のときは、他の園からスタッフの応援を要請できる体制も整っています。加えて、子どもの体調不良など、突発的なお休みでも安心して休める助け合いの文化がここでは根付いています。

家庭の事情にあわせた雇用形態

2人のもうひとつの共通点は、雇用形態がパートではなく正社員であること。一見、普通なことに聞こえるかもしれませんが、女性保育士の多くは、出産をきっかけに退職したり、正社員だった頃の業務量や責任の重さが不安で、産休・育休後は仕方なくパートに切り替えて復帰することも多いそうです。また、自分の子どもの都合に合わせた固定シフトを求めると、パートの選択肢しか残されていなかったりと、保育業界で正社員として復職することは、雇う側も雇われる側もハードルが高いのが実態です。

そんななか、山口さんは固定シフト制の正社員、奥田さんは時短正社員として働いています。

山口さん

私は大体、8時〜17時の固定時間で働いています。保育士のお仕事って、基本朝も早く出ないといけなかったり、夜の延長保育が入ったりするのが当たり前。他の求人も見ましたが、早朝や延長時間など、フレキシブルにシフトが組めないと正社員で働かせてもらえない感じでした。シングルマザーということもあって、経済的な面でもすごく助かっています。

奥田さん

私は土曜日の保育もしないという契約で、8時〜16時の時短正社員です。多分私が一番わがまま言ってるんじゃないでしょうかね(笑)。くうねあは、スタッフの家庭を大事にしてくれる会社です。普通であればパートを提案されるような条件ですが、子どもたちとの時間を確保しつつ、ボーナスも出るし、退職金の制度にも加入させてもらえてとても有難いです。

なかなか勇気ある奥田さんの時短正社員という働き方。周りの反応はどうだったのでしょうか?

奥田さん

時短正社員は私が初めてではなく、既に数人いらっしゃいました。最初は私も肩身が狭い気持ちでいたのですが、周りが全然そんな空気を出さなくて。「もうお迎えの時間だよね、気をつけて行ってらっしゃ〜い!」って感じで気持ちよく送り出してくれるんです。今後、出産される方にもこういう働き方があるんだなって思ってもらえたらいいなと思っています。

残業ゼロ。持ち帰りゼロ。

保育士ママとして、固定時間での勤務、時短正社員としての働き方はとても理想的です。一方で、保育業界は残業や仕事の持ち帰りが多いというのもよく耳にします。実際、時間は足りているのでしょうか?

山口さん

残業も持ち帰りもほぼゼロですね。事務作業は基本的に園児が午睡中に終わらせたりするのですが、子どもが起きてしまったときなどは、他のお部屋からフォローに来てもらって、事務室で1人で作業できる時間を確保してもらえたり。助け合える環境が整っているのが大きいと思います。

奥田さん

私は以前、幼稚園でクラスの担任を1人で務めていました。平日休めないのも当たり前で、自分が間に合わなかった仕事は全部自分に返ってくる感じでした。ここの園は、スタッフの人数も多いので、1人当たりの仕事量は多くはないと思います。

さらに、くすの木保育園の子どもの主体性を重視した保育の方針も影響しているようです。

奥田さん

本来、保育士にとって製作物なども負荷が高い業務なのですが、ここの園では大人が子どものために全部出来上がったものを提供することはしません。子どもと材料のところから、今日は何を作りたいか対話しながら作っています。子どもと過ごす時間のなかで、製作物を完成させることができるので仕事として作るものはないです。

残業も持ち帰りもゼロですが、休憩時間が犠牲になることはありません。休憩する環境でさえも、スタッフへの配慮が感じ取れます。

奥田さん

子どもが一切入ってこない休憩スペースが準備されていて、きっかり1時間、仕事の持ち込みなしで取ってくださいと言われています。1人でゆったり過ごすこともあれば、スタッフと一緒に時間を過ごしたり。私は家が近いので、夕飯の買い物や家の掃除に帰ったりもしています。

今まで受けた恩が巡っていきますように

最後に、改めてお二人にくすの木保育園で働く魅力や今後の意気込みについて伺いました。

山口さん

くすの木保育園には本当に色んな方が働いていて、実はシングルマザーの方も多いんです。同じ境遇の人が同僚にいるというのも励みになります。私は九州から出てきて周りにすぐ頼れる存在がいないので、何かあったら話を聞いてもらって「こういう解決策があるよ、こうしたらいいんじゃない」って。一緒になって悩んでくれるのが嬉しいですね。

あとは、何よりみんなが本当に楽しそうに仕事していて。そのおかげもあって、子どもたちも一緒になって楽しく過ごすことができているんだなぁと思っています。「これをしなさい、あれをしなさい」と決められたことではなく、子どもの主体性を大切に子どもと一緒に大人も楽しむのが、私の保育スタイルにも合っているような気がします。

奥田さん

本当に有難い環境で楽しく働かせてもらっていると思います。私は今は自分のことで精一杯で家庭を大事にしたいばかりで、自分のことしか考えられていません。でも、いつか私の子どもの手が離れた時には、私がこれまでかけてもらった温かい言葉をかけてサポートに回れる立場になれたらいいなと思っています。時は違っても、恩が巡っていったらいいですね。

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